第32話「追跡、ジェネシスタ」
模擬試験から2週間が経過した。
その日は学校は休みで、サイはいつも通り目を覚まし、朝食を食べる。
サイと同様、彼の父も母も仕事は休みで、家でゆっくりしていたのだが、その日は母のキリマの調子がいつもと違っていた。
顔が赤くなり、咳き込んでいるキリマを、サイは心配する。
「お母さん、顔赤いよ?風邪?」
「うん、そうみたい……今日は買い物に行く予定だったのに……。」
「じゃあ僕が代わりに行くよ。お母さんは家でゆっくりしてて。」
「本当?助かるわ。このメモに書かれているものを買いに行って欲しいのだけれど……。」
そう言ってキリマはサイに買うものが記された紙切れを渡した。
書かれていたものは、人参2本、キャベツ1個、塩1便、ブルーフィッシュの切り身1セット(1セットにつき切り身3つ入り)、レッドボアのひき肉、青い石鹸2個、木の歯ブラシ3個、以上の7つだ。
「分かった。行ってくる。」
「気をつけてね。」
サイは買うものが多いなと思いつつも、今日は自分が母の代わりに買い物に行くんだとやる気を出してお店へと向かった。
そんな彼に、ついて行きたいという者が1人……。
「随分と注文が多いねぇ。主婦が大変なのは今も昔も変わらないね。」
「ジェネシスタ……何でついて来たの?」
買い物に着いて来たのはジェネシスタだ。
彼女は興味本位でサイの買い物に着いて来たかのように、サイには見えた。
「現代のお店で売られてる物がどんな物け知りたいのさ。現代についての勉強って訳。」
「なるほど。はぐれないでね。」
「はーい。」
そうして、サイはジェネシスタを連れて買い物をする事となった。
初めにサイは、野菜2種とブルーフィッシュの切り身、レッドボアのひき肉を買う事にする。
腐る事を心配する必要は無い。サイが持っているバッグには、キリマによって魔法が施されており、中に入ってる物の腐敗を遅らせる事ができるのだ。
サイは八百屋で人参2本とキャベツ1つを購入した後、魚屋でブルーフィッシュの切り身1セットを購入し、続けて肉屋でレッドボアのひき肉を購入した。
その後、石鹸と歯ブラシが売ってる雑貨屋に来たサイとジェネシスタは、木の歯ブラシと青い石鹸を探す。
「青い石鹸は……これか。それと……木の歯ブラシは……あった、これだ。」
「この時代でも歯ブラシは木製なのか。」
ジェネシスタ曰く、歯ブラシは200年前から木で作られていたそうだ。
「他に歯ブラシに適した素材が無いからね。なんか最近、プラスチック?っていう新種の素材を使った色々な商品の開発が進められてるみたいだけど、量産されるのはすこし先になるって、新聞に書かれてた。」
「それは待ち遠しいね。」
サイとジェネシスタはそんな会話をしながらレジへと向かった。
「これください。」
「銀貨1枚です。」
石鹸と歯ブラシの価格はどちらも1つ銅貨2枚で、石鹸2個と歯ブラシ3個で計銅貨10枚となり、銅貨は10枚で銀貨1枚と同等の価値なので、会計は銀貨1枚となった。
サイはキリマから渡された財布から銀貨1枚を出し、店員に渡した。
そして用を終えたので店を出るサイとジェネシスタ。
これで全ての買い物を終えたサイは、これで買い物は終わったと一安心した。
その後ろで、ジェネシスタが危機に陥っているとは知らずに。
「ふぅ、買い物はこれで終わりだ。現代の事について少しは学べたかな、ジェネシスタ……ジェネシスタ?」
サイがジェネシスタの方を振り向くと、そこにジェネシスタの姿は無かった。
突然消えたジェネシスタ。
サイは嫌な予感がし、辺りを見渡したが、どこにも彼女の姿は無かった。
「そんな……ジェネシスタが独りでに動くとは考えられない……まさか……誰かに連れ去られた……?」
サイの脳裏に思い浮かんだのは、何者かによるジェネシスタの誘拐。
ジェネシスタは200年前の魔導王が生まれ変わった存在で、そんな物はこの世界には1人しかいない。
誰かに狙われてもおかしくない、特に悪い大人には狙われる確率が高い。
「ジェネシスタ、どこに……ッ!?」
そう考えたサイは、直ぐにジェネシスタを探そうとしたが、彼の視界にある景色が写し出された。
真っ暗な場所で、人っ子1人いないような場所の景色だ。
「この景色は……暗い……この景色がそう遠くない所だとしたら……これは……路地裏?この景色をジェネシスタが見てる?」
そう考えたサイは、建物と建物の隙間を見つけ、そこに足を踏み入れた。
そこは光の届かない暗い裏路地で、奥の方はさらに暗くて何も見えない。
だが、サイは勇気を出して足を踏み入れた。
このままではジェネシスタが遠くに行ってしまうと考えたサイは、急いで奥の方へと向かうが、それを拒む者が現れた。
「おっと兄ちゃん!ここを通りたけりゃ金貨100枚出しな!」
「すみません、急いでいるので……!」
「あぁ?んな事知るかよ!痛い目見たくなけりゃ……!」
サイの前に現れたチンピラは、ナイフを取り出してサイに金銭を要求してきた。
サイは一瞬自分に突きつけられたナイフを見て怯んだが、ここで足止めを受けている場合では無いと考えたサイは、魔法によってチンピラを無力化する事に決めた。
「ごめんなさい……スリープ!」
「なっ……お前……舐めてんじゃねぇ……ぞ……すぅ」
サイは睡眠魔法、スリープを使い、チンピラを眠らせる事に成功した。
なんとかチンピラの相手をせずにすんだと安心したサイは、そのまま裏路地の奥の方へと走っていった。
(さっきの景色は……ジェネシスタが視覚共有で僕に見せてくれたんだ。自分の居場所を僕に教える為に。待ってろジェネシスタ……!)
サイはそう考えながら、定期的に送られてくるジェネシスタが見ている風景を頼りに、裏路地を駆け巡っていた。
そしてついに、裏路地のある場所で、ローブを被った背の低い男と遭遇する。
「!!……貴方は……!!」
「ゲッ……来やがった!!」
この男がジェネシスタを攫ったのではないか、そう考えたサイだったが、その予想は的中した。
サイの視界に、サイ自身の姿が写し出されたのだ。
(これは……ジェネシスタが僕を見ているんだ!やっぱりその男に……!!)
「ケッ!!このゴーレムは死んでも離さねぇぞ!!」
「あっ……待て!!」
だがその瞬間、謎の男は横の通路へ走って逃げていった。
なんとかその男に追いつこうとするサイは、必死で走った。
ジェネシスタは一体どうなってしまうのか、悪い事に利用されるのか、と考えたサイは、彼女を取り返す為に通路の奥の方へと駆けていった。
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