第31話「戦いの後で」

合同模擬試験で、ラビスに敗北したサイとアレンは、自分達と1級冒険者の力の差を思い知らされた。


「やっぱりプロの冒険者はレベルが違いますね……。」


「うん。でもそれより、サイ君が使った光刃、ジェネシスタから学んだものだよね?君ってかなり魔法使えるんだね。凄いよ。」


「いえ、最近習得したばかりなので、これから伸ばしていかないと。」


サイとアレンが話をしながら模擬試験を終えた生徒が待機する場所に向かおうとする途中、そこでエルストに声をかけられた。


「サイ!お前アレン先輩と仲良かったのか!ゴーレム決闘の四天王と仲が良いなんて凄いな!」


「そ、それほどでも……。」


(あぁ、なんかこのエルスト君は気が合わなさそうだな……いやこの子が悪いって事じゃないけど……なんかグイグイ来る感じが苦手だ……。)


エルストに羨望の眼差しで見られたサイは、恥ずかしそうに謙遜し、アレンは内心エルストは苦手なタイプの人だと感じていた。

この学校の四天王は、自分の気に入った者を友人、または取り巻きとして自分の身の回りに置く事がよくある。

ルージュのようにファンクラブなるものがある四天王もこの学校にはいたそうだ。


だが、アレンはあまり多くの人との関わりを持とうとしない。

それは、彼が周りの生徒の話題や流行に合わせるのが苦手だからである。

いつもゴーレムいじりばかりしてるアレンは、気づけばそれに夢中になっていて、友人を作り、それと仲良くするという学生として大切な事を疎かにしていた。


結果、彼はこの学園で友人を作ること無く2年生に進級したのだが、そんな彼はある1人の1年生に興味を持つ。

それが、サイ・トループである。

プチゴーレムでありながら、人の魂を宿し、四天王を倒す程の力を持つゴーレムを従える彼を、周りの生徒は気味の悪い存在だと認識していて、彼と友達になろうとする生徒はいなかった。

そんな彼なら、友達がいない者同士気持ちを通わせることが出来るのではないかと考えたアレンは、この合同模擬試験を機に、彼と友達になる事を決めたのだ。


「あ、俺サイの友達のエルストです。よろしくお願いします!」


「(初対面の人だ……どう話そう……)よ……よろしく……。」


「知ってるかサイ?アレン先輩は周りの生徒とは馴れ合わずに、常にクールな雰囲気を出しているから、「氷の華」って呼ばれてるんだぜ。かっこいいよな?」


「え、そうなんだ……カッコイイですね。アレン先輩!」


(カッコイイ……カッコイイ……カッコイイって言われた!!今まではちょっとその名前で呼ばれるの恥ずかしいって思ってたけどカッコイイって!!いやーこの名前も捨てたもんじゃないな〜えへへ……。)


アレンは内心そう思っていたが、溢れ出る喜びの感情はどうしても止められなかった。


「アレン先輩笑ってる……。」


「サイにカッコイイって言われたのが嬉しかったんじゃね?それとアレン先輩は、1年の頃ゴーレム決闘で当時の四天王3人を倒して、無名のゴーレム使いから四天王に成り上がったんだぜ!凄いだろ?」


「あ、そ、そんな事もあったね〜懐かしいな〜ははは……。」


「アレン先輩そんな実績があったんですね。凄いです!」


「え〜もう過去の事だからな〜えへ、えへへ……。」


エルストの言葉を聞いたアレンは、そう言って心底嬉しそうな笑い声を出し、サイにまた褒められて鼻が高くなったような気になった。

その時、模擬試験の順番を待つ生徒達の列の方からエルストを呼ぶミリーの声がした。


「エルスト。もうすぐ私達の番ですよ。戻ってきなさい。」


「あ、姉ちゃん今行く!そういう訳だから、じゃ!」


「姉ちゃん……?エルストってミリーの弟なの?」


「従姉だな。姉ちゃんは親父の弟の子なんだ。それよりも早く戻らねぇと。またな!」


エルストは、自分とミリーがいとこである事をサイに教えると、列の方に戻っていく。

人は意外な繋がりがあるものなのだな、とサイは思った。

その後ミリー、エルストペアがラビスに挑む番が来て、2人は奮闘したが、1級冒険者であるラビスの力には及ばず、行動不能にされてしまった。


「ミリー君は魔法の才能に長けてるな!今日1番の勝負ができたかもしれん!エルスト君もなかなかの強さだったぞ!2人共これからも己を鍛える事だ!」


「「はい!」」


そうして2人はラビスの拘束魔法、バインドを解かれ、待機所へと向かう。


「これからはもっと魔法の訓練に励まないといけませんね。」


「ミリー姉ちゃんなら良い魔術師になれるぜ!」


「そう言ってもらえると嬉しいです。エルストも強くなりましたね。」


「へへっ、強くなるために頑張ってるからな。」


ミリーとエルストは互いの成長を認めあいながら待機所でも最近自分の身の回りで起こった出来事などを情報交換しながら試験が終わるまでの時間を過ごした。

そして、最後のペアが試験を終え、授業は無事終了した。


「ラビスおじさん強すぎでしょー!勝てなかったしー!」


「私達もあれぐらい強くならないとですね。」


模擬試験を終えたアンジュとヘレスは更衣室で着替えをしながら今日の授業の感想を話していた。

一方でトライアとミリーは年頃の女の子らしい話をする。


「ねぇミリー、アンタ弟君とはどんな感じなのよ?」


「どんな、とは?」


「ほらあるんじゃないの〜?いとこ同士の禁断の恋!的な!」


「変な事を言わないでください。数年前まで私とエルストは一緒にお風呂に入るような関係だったのに……そんな関係になる訳無いでしょう。」


「よく男の子とお風呂入れるわね〜。いとこ同士だから恥ずかしさとか無いのか。でも、きっと弟君その時アンタの裸の姿見て興奮してたわよ〜?」


「また変な事を……。」


トライアはミリーをからかうような事を言っているが、彼女は全く動じてない様子だ。

一方で、男子更衣室の方でも、サイとエルストは着替えをしながら話をしていた。


「なぁ、サイってその気になればルージュ様に勝てるんだよな?じゃあ結婚を賭けて決闘すればルージュ様をお嫁さんにできるんじゃね?」


「そ、そうだけど……決闘で無理やり結婚させるなんて僕は嫌だな。ルージュ様にはルージュ様の好きな人を選ぶ権利があるんだし。」


「お前……マジメか!」


「マジメて……エルストは違うの?」


「俺はゴーレム使いじゃないから、そういうのは分からねぇ。俺には好きな人がいるんだけど、言われてみればその人を無理やり自分のものにするのはなんか違う気がしてきたな。」


サイもエルストも15歳。そういう話をしたがる年頃だ。

エルストが好きな女性とは誰だろうと思いつつ、それはいずれ分かるだろうと、その考えは胸の内にしまいこむサイと、

サイとの話の中で「こいつは好きな女子いないのかな?いや絶対いる。特にアンジュ先輩達4人の中に誰か1人……いや、4人全員好き!?ハーレムを作ろうと企ててるのか!?こ、こいつ……!!」と(ありもしない)考察をするエルスト。


(僕も話に混ざりたいな……でも僕、コミュ障だから無理!!)


その一方で、アレンはサイとエルストの話題に混ざれずにいた。

やはり生まれ持った性質というものは、変えるのは難しいものだと、彼は実感した。

こうして1、2年合同模擬試験は終わり、生徒達はまたいつもと同じ日常に戻っていくのだった。



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