第30話「2人の戦い」

ラビスは、まさか学生が置き魔法という高度な技を使ってくるとは思っていなかった。

彼は置き魔法を使ったのは、ヘレスとゲール、どちらなのかと2人に聞く。


「あんな高度な技、学生の内にできるものでは無いはずだが……使ったのはどっちだ?」


「自分です。」


ラビスの質問に、ゲールが自分がやったと答えた。


「俺が壁を破壊すると予測した上で置き魔法を使ったのか?」


「はい。失礼ですが、貴方は自分の力を誇示するような戦い方をする人なので、上手く引っかかってくれるかも、と思いました。」


「そうかそうか、そういう解析……良いね!」


ゲールはよく冒険者の活動を、冒険者達に直接聞き込み、自分が冒険者になった時、それを参考にする為に、その冒険者の戦い方を手帳に書き写している。

彼はこの1ヶ月の内に、シャインルビーの冒険者達にラビスの話を聞いており、彼ら曰く「ラビスは自分の力が強いという事を周りにアピールするような戦いをしている」だそうだ。

それを聞いたゲールは、彼との模擬試験で少しでも勝率を上げる為に、置き魔法を習得し、それを模擬試験で活用した。


「ウインドカッター!」


その時、ヘレスがラビスに向かって風の刃、ウインドカッターを放った。

この試験は、ラビスが生徒を行動不能にしない限り、生徒が彼に攻撃し続けられるというルールになっている。

彼がゲールの方に意識を向け、油断してる今なら……そう思ったヘレスは攻撃魔法を仕掛けた。しかし……。


「容赦なく魔法を使ってくるその心意気もよし!」


ラビスはヘレスの方を振り向くこと無く、拳でウインドカッターを弾き飛ばし、弾かれたウインドカッターは地面にめり込んだ。


「自分の長所を伸ばしながら、これからも頑張れよ2人共!でも今日は俺の勝ちって事で!バインド!」


ラビスは、この試験で自分に勝つための工夫を怠らなかったヘレスとゲールを称えたが、その直後に拘束魔法、バインドを発動し、2人を拘束し行動不能にした。

生徒が行動不能になった時点で、この試験はラビスの勝ちとなる。


「試験終了!ヘレス、ゲールペアは次のペアに代わってください。」


「はい……。」


ラビスにバインドを解かれ、先生にそう言われたので次の生徒と交代するヘレスとゲール。

サイとアレンの順番まで、あと3組となった。


「ウインドカッターを弾き飛ばしたあの拳撃……厄介ですね。」


「やられたら即敗北の拘束魔法が使えるのも、どうするかが試験のキモだよね。(2年生の、先輩の僕がサイ君をリードしなくちゃ……う〜心配だな……。)」


圧倒的パワーを持つラビス相手にどう戦うかと考えるサイと、サイと上手く連携できるかと緊張するアレン。

前の3組の模擬試験が終わるまで、サイはこの試験の勝利法を考え、いよいよサイ、アレンペアの番が来た。


「次、アレン、サイペア。」


「遠慮無く来たまえ!アレン君!サイ君!」


先生の試験開始の合図によって、サイとアレンの模擬試験が始まる。


「サイ君!強化魔法を!」


「はい!パワーアップ!スピードアップ!ディフェンスアップ!」


まずはサイがアレンに筋力強化、速度強化、防御強化の魔法をかけた。

自分がサポートに回るという可能性も考慮して、この魔法を覚えてて良かったと、サイはそう思った。

今回は、サイはサポート役に徹し、アレンが相手に接近戦を仕掛けるという作戦を立てる事となった。


「行きますよ!」


「この俺に接近戦を仕掛けるか!大した度胸だ!」


ラビスは、近接戦に特化した自分に近接戦を挑むアレンを賞賛し、向かってくるアレンを両手で押さえ込もうとした。

その直前に、アレンは宙返りをしながらラビスの手から逃れ、空中で身を捻らせながら光刃を手元に形成し、それを振り下ろしてラビスの頭に直撃させようとした。


「やるな!だが!」


ラビスは両手に魔力を集中させ、その硬度をアレンの光刃から身を守れる程までに強化させた。

その両腕を頭上で交差させ、頭部を守るラビス。


そして地上に降りた直後の、無防備なアレンを、ラビスはバインドで縛ろうとした。

3本の鎖がラビスの足元から現れ、それがアレンの元に向かって伸びていくが、その鎖をサイが、風の刃、ウインドカッターで切り裂き、アレンは事無きを得た。


「まずはサイ君を止めるべきか。サポーターがいなければ戦士は弱くなる!」


ラビスはそう言うと、サイ目掛けて鎖を伸ばした。


「ウインドカッター!」


サイはさっきと同じように、ウインドカッターで鎖を切り裂こうとしたが、その一撃を受けても鎖は千切れなかった。


「なっ……切れない!!」


「3本の鎖を束ねたのだよ!矢は1本では簡単に折れる!だが3本ならそう易々とは折れない!」


彼の言う通り、鎖は束ねられており、サイのウインドカッターを受けてもそう簡単には千切れないようになっていた。

このままでは自分は拘束され、間もなくアレン先輩も拘束されるだろう。何か手は無いか……?そう考えるサイの耳元に、彼の声が届く。


「負けるな!サイ!」


「……!?」


エルストの声だ。彼がサイを応援する声が、サイの耳に届き、それを聞いた彼は、負ける訳にはいかないと覚悟を決めた。


「はぁっ!!」


サイは思い出した。先日、ジェネシスタに光刃の使い方を教えてもらった事を。

彼は手元に光刃を形成した。それも、魔力をなるべく多く注ぎ込み、切れ味の増した光刃を形成する。

それを振りかざして鎖を切り落とした。


「やるな!」


「この日の為にジェネシスタに教えてもらってたんだ!」


サイは、この魔法ならいけると決心し、さらに左手にも光刃を形成し、2本の刃を構えてラビスに向かっていった。アレンは作戦を変え、2人同時に襲いかかるのかと考え、彼も魔法を使う準備をした。


「強敵を前にしても物怖じしないその心意気!流石マージクル学園の生徒だ!だが!」


ラビスはサイの勇気を賛美したが、その直後、サンドウォールを発動し、サイとアレンを拘束するかのようにサンドウォールを展開、彼らは四方を壁で囲まれ、行動不能となった。


「アレン、サイペア、行動不能。よって試験終了。」


先生のその一声によって、サイ、アレンペアの試験は終了した。



「サイ君、無策に特攻するのは良くない。敵への攻撃は細心の注意を払って行うものだ。」


ラビスはサイを諭しながら2人のサンドウォールを解除した。


「……はい!」


「良い顔をしているな!将来君は成功するだろう!きっとな!ハッハッハ!」


ラビスに負けたサイの表情は、先程よりも1段成長したような表情をしており、ラビスはサイの将来に期待する言葉を彼に送った。

力を磨き、敗北し、また磨き、より成長する。そうしてこの世界の人達は成長していくのだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る