第28話「自分を求めている人」

メメントが決闘場を去った後、サイはルージュから彼女の話を聞かされた。

メメントは実家を離れて一人暮らしをしており、そこに学年問わず複数の女子生徒を呼んでいた。

ルージュは先日、メメントの家に呼ばれた女子生徒から相談を受けており、女子生徒らによると、彼女達はメメントから、威圧的な態度で精神的苦痛を受けさせられていたとの事だ。


ルージュはメメントの侍女達を解放する為に画策しており、この日いよいよロッソ隊を彼女の家に突入させる事を決意したそうだ。


「ミリー、ヘレス、今からメメント・サーベラスの家に向かいなさい。学生なら放課後の今はそこにいるでしょう。彼女達の保護を。」


「「はい!」」


ルージュはミリーとヘレスをメメントの家に向かわせる事にし、彼女らは迅速にその場所に向かった。


「僕は何をすればいいんだろうか……。」


「君はじっとしておくのがいいね。これは女の世界だから。」


サイは、自分にも何かできる事は無いかと考えたが、そうする必要は無いとジェネシスタは言った。

その時、ルージュと共に現れたアレンが、サイの元に歩み寄ってきた。


「サイ・トループ君。この短期間で四天王を3人も倒すなんて凄いね。」


「貴方は……アレン先輩、ですよね?」


アレンはサイの問いかけに、そうだよと答えた。

アレンはせっかくサイと会えたので。ある提案をする為に彼に話しかけたのだ。

だが、彼は本題を切り出す前に(本題を切り出す勇気が持てず)、サイのゴーレムであるジェネシスタの話をした。


「君のゴーレムは魔導王、ロード・ジェネラルの魂が宿っているんだってね。いやー凄いゴーレムだねー。」


「そうかい?ならもっと褒めたまえ!そうとも私がかの魔導王ですとも!」


「ジェネシスタ……。」


アレンに褒められて鼻が高くなったジェネシスタは、またもや調子に乗っていた。

そんなジェネシスタの傲慢な態度に半ば呆れるサイだったが、彼女が強いのは事実なので彼もそれを認めざるを得なかった。


「サイ君。彼は四天王の中で唯一の2年生。歳も近いので貴方とは仲良くできるはずですわ。」


そこにルージュも入ってきて、サイがアレンと仲良くなるよう後押ししてくれた。

それを聞いたサイは、アレンと友好な関係を築こうと思った。


「なら……よろしくお願いします、アレン先輩。」


「サイ君……よろしくね。」


サイとアレンは固い握手を交わし、交友関係となる事となった。

アレンは「あの話」をするなら今だと思い、それをサイに打ち明けた。


「そうだサイ君、2週間後に1、2年合同模擬試験があるのは分かるよね?」


「はい。1年生と2年生で組んで冒険者と模擬試験をするっていう授業ですよね?」


「そう。その授業で僕と組まないかい?僕としては仲のいい1年生と組みたいと思ってたんだ。」


「アレン先輩はその為に僕と仲良くなろうとしたんですか?」


「いや、単に君とは気が合いそうって思っただけだよ。模擬試験は関係ない。いいかい?模擬試験は……関係無いんだ。分かったね?」


アレンは、サイに聞かれた事を否定する為にそんな事を言ったが、それは、僕は自己の利益の為にサイ君と友達になった訳じゃないんだと、自分に言い聞かせる為にも言った事である。


「……分かりました。アレン先輩が良ければ。僕としても四天王であるアレン先輩と組めるのは良いことだと思いますし。」


「本当?ありがとうサイ君!」


アレンはサイの返事を聞いて、嬉しさから彼の手を握ってそれを表現した。

ジェネシスタは、彼は人との距離感を測るのが苦手なのかなと思ったが、サイは喜ぶアレンの顔を見て、自分んかでも人を喜ばせる事ができるんだなと実感できて嬉しかった。


「よろしくね、サイ君!」


「はい、こちらこそよろしくお願いします。」


そうして、模擬試験でアレンと組みたいと思っていたサイは、向こうから先に頼んでくるという予想していなかった形で彼と組む事ができた。




一方、メメントの家では、 ミリーとヘレスによってそこにいた女子生徒3人は保護され、彼女達はメメントの手から逃れる事ができた。

メメントは、先程その場でミリーとヘレスに諭された事で、女子を利用し、キツく当たる事から足を洗う決心を付けることができた。


「……これからは家事を1人でしていかなければいけないのか……。」


その時、家のドアをコンコンと2回叩く音がした。

客人が来たのかと思い、メメントがドアを開けると、そこには小太りで、顔には髭を生やし、丸い縁のメガネをかけた男性がいた。

サーベラス家の現当主でメメントの父、ジンバ・サーベラスだ。


「父さん……。」


「ここに来る途中でマージクル学園の生徒とすれ違ったぞ。彼女らの話によると、お前は女子生徒を侍らせては酷い扱いをしてきたそうじゃないか。メメント……本当にそんな事をしていたのか?」


「そうだよ。そして私は今日決闘に負けた。サーベラス家の面汚しだ。」


メメントは俯きながら、父の質問に答えた。


「そうか……それは、サーベラス家の頭首として見逃す訳にはいかないな。」


「……。」


「だが、見逃す訳にはいかないというのはサーベラス家頭首としての考えだ。お前が今までの行いを悔い改め、これからは真っ当に学園生活を送っていくというのなら、私はメメントの行いを、若気の至りとして見逃そう。だから……。」


「父さんは優しいね。」


「人格者でなければサーベラス家の頭首は務まらんよ。」


父にそう言われたメメントは、決意した。こんな自分でも許してくれる存在がいる。

その人に報いる為にも、変わらなければいけないんだと。


「……そう簡単に変われるとは思えないけど、やってみる……。」


「そうか……それと、たまには家に帰ってこい。私はいつでも歓迎するぞ。」


「あの姉がいる家に戻るのは嫌だな。」


「そうか……父としては娘達には仲良くして欲しいものだが……。」


だが、メメントと2人の姉の間の確執はまだ続きそうだ。

父はそれを憂いたが、何にも縛られず、自由に生きるのがメメントには合っているだろう。

この日から1ヶ月の間彼女の停学処分は続いたが、それは彼女が「変わるための1歩」を踏み出す為の1ヶ月でもあるのだ。



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