第27話「愛に飢える者」

サイとメメントの決闘は、激闘の末にサイのジェネシスタが勝利を掴み、彼の勝利に終わった。

ジェネシスタはサイの元に戻り、彼はジェネシスタの勝利を称える。


「よくやった。ありがとう。」


「どういたしまして。約束通り勝ってきたよ。」


その時、勝利の余韻に浸る2人の前にメメントが現れた。

何事かと思ったサイだったが、彼女は至って冷静な態度を2人に見せた。


「どうする?実力行使するかい?」


「……この決闘、君達の勝ちだ。そして私の負けだ。約束通り、トライア、アンジュ、ミリー、ヘレスは解放しよう。」


決闘に負けたメメントは、癇癪を起こして無理やり自分を奪いにくるのではないかと考えたジェネシスタだったが、メメントは潔く自らの敗北を認めた。

彼女にそう言われてホッとするサイは、自分達の決闘の様子を見ていたアンジュ達の方を振り返った。


「やったよ皆!」


「サイ君、ありがとう!」


「とりあえずサイっちが勝ってくれて一安心だわ〜。」


「サイさん、後ろ……!!」


「え……?」


サイの勝利に喜ぶアンジュとトライア、しかしその時、彼はミリーの言葉を聞いて後ろを振り向く。

そこには、ジェネシスタを掌握しているメメントの姿があった。

なんで……潔く負けを認めたんじゃなかったのか!?隙をついてこんな事を……!!と、不意をつかれたサイは焦りの表情を見せる。


「負けを認めたんじゃなかったのかい?」


「認めたからこそ、君は生かしておけない。私に敗北を味あわせた君だけは……!!」


「やめるんだ。罪を重ねるんじゃあい。今ならまだ間に合……ッ!!」


メメントに掴まれたジェネシスタは彼女を諭そうとするが、その時、彼女は身体に謎の違和感を覚えた。


「ジェネシスタ!メメント先輩を眠らせて脱出するんだ!あの時やったように……ジェネシスタ……?」


「すまないサイ……身体が……上手く動かないようだ……。」


ジェネシスタがそう言った直後、彼女を掴んでいたメメントの右手の制服の袖からある物が地面に落ちた。

それは小さな針で、先端にはオレンジ色の液体が塗られている。

液体の正体は、ゴーレムの魔法と動きを封じる毒である。


「君は……こんな事をしてタダで済むと思っているのか……?」


「私のものにならないゴーレムは……消えてしまえ……!」


ジェネシスタの問いかけに対してそう答えるメメントは、懐から小瓶を取り出した。

小瓶の中には、鉄や鉱石を溶かす流動体、スライムゼリーが入っている。


「まさか……やめてください、メメント先輩!」


「メメントパイセン!見苦しいッスよ!」


「ジェネシスタさんを離しなさいメメント・サーベラス!」


サイ、トライア、ミリーの制止も聞かず、メメントはその小瓶を開け、中のスライムゼリーをジェネシスタにかけようとする。

このままでは彼女はスライムゼリーによって身体を溶かされ出しまう。

核が溶かされれば、それ即ちジェネシスタの死を意味する。


「死ね、魔導王……!!」


今にもジェネシスタが破壊されてしまいそうだ。

サイはメメントを止めようと足を動かしたが、今からでは間に合わず彼女が死んでしまう……間に合わない……彼が諦めかけたその時。


「!!」


ジェネシスタの身体にスライムゼリーがかけられる直前で、小瓶を持ったメメントの手は止まった。

いや、止められたのだ。彼女の手には糸が絡み付いている。

鉄のように硬い糸、鉄糸によってメメントの手は止められ、その魔法を使った人物と、ある人物がその場に姿を現した。

四天王のルージュとアレンである。


「四天王にこんな輩が2人もいただなんて……我が校の名は地に落ちてしまいますわね。」


「貴方には1か月の停学処分を与えます。その間出させる宿題をこなしながら、しっかり反省してください。」


ルージュは、四天王でありながら悪事を働こうとしたメメントの行いに対して、その場で罰を与えた。

この学校において、ゴーレム決闘に関する事で悪事を完遂した場合は決闘権の剥奪、未遂に終わった場合は停学処分が下される。

メメントの手はあと一歩の所でアレンに止められたので未遂となり、与えられる罰は停学分となった。

それを告られた彼女はふと我に返り、ある事を思い出して、スライムエキスの入った瓶を投げ捨て、冷静さを取り戻す。


「……あぁ、分かった。すまないサイ・トループ、どうやら私は頭に血が上っていたようだ。これは君に返す。」


メメントは罰を受け入れ、ジェネシスタをサイに返した。

サイには分からなかった、メメント・サーベラスという人間が。

女性を道具のように見下し、それを支配する為に決闘を行い、今まで戦ってきた彼女が理解できなかった。


「メメント先輩……貴方はなんでこんな事を……女性と仲良くしたいのなら、女性に仲良くすれば、貴方なら沢山の人に尊敬されて、たくさんの友達が作れたはずなのに……。」


「……。」


サイにそう聞かれたメメントは思い出していた、家族と一緒に暮らしていた時の事を。

2人の姉にこき使われ、何かを失敗すれば罵倒される日々。


「使えない子ね!」


「私達と同じサーベラス家の子とは思えないわ!」


思い返してみれば、そんな環境にいたから自分はこうなったんだろうと、彼女はその時初めて、自分というものを理解した。


私は、他者(女性)の上に立つ事で姉達のようになりたかった。


「少し、背伸びをしたかったんだ。」


サイの問いかけに対して、メメントはそう答えた。

彼女の脳裏には、意地悪な姉だけではなく、ゴーレム使いの才能を開花させた自分を褒めてくれた父の姿もあった。

父に「お前は立派なゴーレム使いになれる」と言われた時、彼女はとても喜んだ。


父のように自分を認めてくれる存在が欲しくて、支配する対象が欲しくて、それらを手に入れるには決闘の他には無かった。

支配する事、それが彼女なりの愛情表現だった。

その為に四天王まで成り上がり、そうする事によって彼女の周りには女の子達が集まってきた。


メメントが歩んできた勝利の歴史、それに泥を塗る者は、ましてやそれが支配する対象である女性なら、彼女はそれが許せなかった。

それがメメントがジェネシスタを破壊しようとした理由だ。


メメントは決闘場を去った。そして1か月間、彼女が学校に姿を現す事は無かった。


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