第24話「絶対的な力」
その日の放課後、決闘場にてメメントとトライアの決闘が執り行われる事になった。
トライアはロッソ隊の1人として、ゴーレムの操縦訓練は積んでおり、学園内での実力は中の上程。
愛機はハイゴーレムのヘルプリム。
素早さに特化した軽装のゴーレムだ。
四天王のメメントが相手では、トライアにとっては不利な状況だが、メメントは昼間に、昨日の決闘で魔力解放を使った為に今は疲れていると言っていた。
トライアの勝機はそこにある。
メメントが疲れている今こそがチャンスだと見たトライアは、自信に満ちた表情で決闘舞台にヘルプリムを置いた。
メメントは2年の侍女メレルに、決闘舞台にアビス・ルビオンを置かせ、自分は2つの魔法操縦桿を出現させ、それを両手で握りしめた。
メメントもトライアも臨戦態勢で、その様子を客席から見つめるサイとジェネシスタ、そしてアンジュ、ミリー、ヘレス。
「大変な事になってるみたいだねぇ、サイ。私は観察しておくとしよう。今から戦うかもしれない相手の戦う姿をね。」
「うん、できればトライアに勝って欲しいけど……。」
「トライア、頑張って……!」
「トライアちゃんが、か、勝てますように……!」
「相手は四天王ですが、勝つという強い意志があればきっと……。」
アンジュ達はただ、トライアが勝利する事を祈るしか無かった。
そして、決闘の準備は万端の彼女は、この不利な状況で少しでも勝率を上げる為に、メメントに揺さぶりをかけた。
「アンタ、四天王なんでしょ?それはそれはお強い事で、私なんかが勝てるかどうか……でも、足元掬われないよう気を付けた方がいいよ?」
「……陽動作戦か、面白い……。」
「決闘、開始!!」
そして、決闘委員会の生徒によって決闘の開始が宣言された。
その直後、メメントは一気に勝負を終わらせようとする。
「スピードアップ。パワーアップ。」
メメントは魔法によってアビスのスピードとパワーを格段に上昇させ、そのままヘルプリムに突撃させた。
疲れていても、魔法を使うぐらい造作もないと言った所だろうか。
突然アビスに急接近され間合いを詰められたヘルプリム。
焦るトライアは、敵は短剣による攻撃を仕掛けてくると予想し、左手の手甲を前に構えた。
彼女の予測通りアビスは短剣を抜き、それを横一線に薙ぎ払った。
ヘルプリムはアビスの斬撃を手甲で防ぎ、そのまま腰のスピアーを抜きその武器でアビスの頭部を突き刺そうとした。
しかし、アビスは速度を強化する魔法をかけられた状態なので、メメントは巧みなテクニックでアビスを回避させ、さらにアビスは脚を突き出してヘルプリムの脚を引っ掛け、ヘルプリムを転ばせた。
「しまっ……!!」
「軽いゴーレムは転ばせやすい。」
「させるか!!」
アビスは転んだヘルプリムの頭部に容赦無く短剣を突き立てようとしたが、トライアは咄嗟にヘルプリムに風の魔法、タイフーンを発動させた。
そのゴーレムを中心に竜巻が巻き起こり、その突風によって自身からアビスを遠ざける事ができた。
「やるな……。」
「私達をナメるな!!スーパーファイヤーショット!! 」
次はトライアが攻撃を仕掛けた。
彼女はヘルプリムに高火力の攻撃魔法、スーパーファイヤーショットを放った。
ヘルプリムの手の平から放たれたゴーレムの身長よりも巨大な火球はアビスに向かって飛んでいき、その火球はアビスに直撃し、大爆発を起こした……かに思われた。
「やった……!?」
「いえ、結界魔法です……!」
アビスは攻撃を食らう直前で結界魔法を発動し、火球から身を守っていたのだ。
アビスの身体には傷1つついておらず、メメントも余裕の表情を浮かべていた。
「強者の余裕ってヤツッスかぁ……?ムカつくなぁ!!」
トライアは諦める事無くアビスに魔法を連射した。ファイヤーショットとサンダーショットを交互に打ち続け、敵の結界を破ろうとした。
だが、彼女が冷静さを失ったのが彼女自身の敗因となるのだった。
何発もの攻撃魔法を連射した事によって、炎や雷の属性からかアビスの傍には絶えず爆炎が巻き起こり、それによってアビスの姿が見えなくなってしまった。
トライアは魔力が尽きそうになって初めてその事に気づき、冷静さを取り戻した頃には手遅れだった。
「……些細な事で熱くなる子は……嫌いだ。」
「!!」
メメントがそう呟いた直後には、決着がついていた。煙幕の中からアビスの短刀が投擲され、それがヘルプリムの頭部を貫いていた。
慎重にメメントに挑もうと心掛けるも、ペースを崩された事で冷静さを失った事が、トライアの敗因だった。
「勝者……メメント・サーベラス!!」
その決闘は、メメントの勝利に終わった。しかし……。
「ごめん……負けちゃった……!」
「ドンマイ。良くやったよ。」
「貴方なりに頑張ったと思います。」
「で、でも……これで私達、あの人の侍女を続ける事に……。」
健闘したトライアをアンジュとミリーは褒め讃えたが、一方でヘレスはこれからも自分達はメメントの侍女として扱われる事を憂いていた。
「逃げるなよ。決闘で賭けた物は絶対に勝者の手に渡らなければならない。お前達はこれからも、私の女だ。」
「あれは……アンジュ達が可哀想だ……。」
「どうするサイ?私はいつでもやれるぞ?」
「うん……やるべきかな……。」
メメントの侍女になる事を強いられているアンジュ達を客席から見ているサイは、メメントと戦うべきかと考えた。
男である自分が女の子同士のいざこざに介入してもいいものか、それとも彼女らの友人になったからには……。
「サイ、見たまえ彼女達の悲しげな表情を。まだ覚悟が決まらないかい?」
「……覚悟なら、今決めた!!」
サイは腹を括ると立ち上がり、息を吸って、そしてお腹から声を発するように、客席から決闘舞台に届く程の声でメメントに呼びかけた。
「メ、メメント先輩!!僕と……決闘してくださーい!!」
「ほう……君が負けたら何を賭ける?」
「僕の……ジェネシスタをお譲りします!!人の魂を宿すゴーレムなんてとても珍しいでしょう!?」
「ふふっ、大胆な賭けに出たねぇ。」
サイは、生半可な物を賭けるのでは四天王であるメメントは動かす事ができないと考え、その結界ジェネシスタを賭けるという考えに至った。
「いいだろう……君が私に求める物は……彼女らの解放かい?」
「そうです!!アンジュ、ミリー、トライア、ヘレスを、ルージュ様の元に返してあげてください!!」
「いいだろう。せっかくここにいるんだ。今すぐやろう。」
一方メメントは、アンジュ達をルージュの元に返す事を賭ける事にした。
そして決闘は今この瞬間執り行われる事となり、サイは小走りで客席から決闘舞台へと向かった。
サイ対メメント。
サイにとって3回目の四天王戦の結末は果たして……。
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