第22話「女四天王の戦い」

1、2年合同模擬試験まであと2週間。1年生と2年生はパートナー選びに躍起になっていたが、3年生の彼女には関係の無い話だった。

彼女の名前はメメント・サーベラス。代々冒険者を営む名家、サーベラス家の三女であり、現在マージクル学園の3年生。

そして学園ではゴーレム決闘において四天王と呼ばれている程のゴーレム決闘の実力者だ。


彼女はその日の朝もいつも通り目を覚まし、お付の侍女に服を着替えさせてもらっていた。


「手際が良いね。愛してるよ。」


「あ、ありがとうございます……。」


侍女は彼女と同じマージクル学園に通う1年の生徒、エナである。

彼女はメメントとのゴーレム決闘に負け、彼女の侍女となった。

メメントは学園の制服に着替え終えると、食卓に向かった。

彼女は実家を離れて、父の持つ別荘で一人暮らしをしている。


「メメント様、朝食の用意ができました。」


「ありがとう。」


朝食を作ったのは2年の女子、メレルで、彼女もゴーレム決闘でメメントに敗北し、彼女の侍女となった。

朝食はこんがりと焼き目のついたトーストで、イチゴのジャムも用意されている。

そしてメレルにトーストにジャムを塗ろうとした。


「ジャムは私が塗りますね……あっ!」


だが、彼女は手を滑らせ、ジャムの入った瓶を机に落としてしまった。

ジャムは瓶から零れ、机に敷かれたテーブルクロスに赤いシミが付着してしまった。

幸い制服に汚れは付かなかったが、メメントはメレルに冷たい視線を向けた。


「あっ……すみませんメメント様!」


「……次からは気を付けてね。」


メメントは侍女の失態を大目に見ることにし、トーストにはぶどうのジャムを塗って食した。

我儘で自分に上から命令をしてくる2人の姉に嫌気が差して実家を出たメメントは、2人の女子を侍らせ、それなりに快適な生活をしていた。


その後、1年と2年の侍女と共に学園へと登校するメメント。


「何か面白い話はないの?」


「すっ、すみません!」


「すみませんじゃなくて……じゃあエナ、面白い話をしてよ。」


メメントは時に、彼女達を自分のご機嫌取りに使う事もある。

なんで自分はこんな事を……心の内ではそう思っているエナとメレルだったが、決闘で負けた以上、自分はメメントに従わなければいけないのだという自覚はあった。


「それじゃあ……昨日学園で友達が転んだんですけど、転んだ先に水溜まりがあって……それでその子顔が泥だらけになったんです。面白いですか?」


「……うん、面白い。じゃあ今度はメレルが何か面白い話してよ。」


「そうですね……昨日下校中に死んだ猫さんを見つけて……猫さんの為にお墓を作ってあげました。」


「死んだ猫……そんな暗い話朝からやるかなぁ……。」


「す……すみません!でも、これぐらいしか思いつかなくて……!」


「……次からはそんな暗い話しないでよね。」


「は、はい……。」


メメントに注意されたメレルは彼女に冷たい視線を向けられ、それから目を逸らしたくて下を俯いた。

一方、メメントは今日のある予定を思い出していた。

彼女は2日前、四天王の1人、ルージュに決闘を申し込み、今日の正午決闘する事になっている。


ルージュは自分が負けたら、自分の友人であり部下であるロッソ隊の4人をメメントの侍女にするという事を賭け、メメントは自分の侍女をルージュの友達にする事を賭けた。

ルージュはメメントの侍女を友達にするという名目で、彼女達を新たなロッソ隊のメンバーとして迎え入れるという計画を企てていたが、メメントはその事を知らない。


そしてその日の正午、ついにメメント対ルージュの決闘が始まった。


「いきますわよ!」


「速いな……。」


ルージュは愛機のニンギル・ヒルメスを操り、メメントの愛機、アビス・ルビオンに高硬度カッターで猛攻を仕掛けていた。

ルージュは以前、2年のアレン・ダレアスに決闘で勝利し、彼のゴーレムに使われている「ゴーレム軽量化の技術」を彼から教えてもらう事ができた。

今のニンギルにはその技術が取り込まれており、ニンギルは以前よりも軽量化され、機動力が大幅に向上したのだ。

いわばこのニンギルは、ニンギル・ヒルメス高機動型なのである。


「これはメメント先輩キツそうだな……。」


「四天王同士とは言え実力差はあるものなのだね。」


客席から決闘の様子を見ているサイとジェネシスタは、四天王同士の戦いをその目に焼き付けていた。


「ホラホラ!!」


「ッ……!!」


ルージュはニンギルの高硬度カッターによる突きで相手の頭部を破壊しようと猛攻を仕掛け、アビスは手甲でカッターを防いだ。

だがこのままでは埒が明かないと考えたメメントは、アビスに腰の短剣を抜かせ、それで相手のカッターを受け止めた。


「力比べですわね?負けませんわよ!!」


「コイツ……パワーも強い……ッ。」


速度が上がったニンギルだが、そのパワーは損なわれること無く、維持されたままであった。

ニンギルと鍔迫り合いをするアビスは、徐々にニンギルに押されつつあった。


「ルージュ様いけー!!」


「……いや、この勝負、勝つのは……!!」


ルージュのファンの生徒は必死でルージュを応援したが、アレンは知っていた、メメントが秘密兵器を持っている事を……。

アレンは魔法「観察眼」でゴーレムや物の特徴を刺し図る事ができる。

それによりメメントのアビスを見た結果、そのゴーレムに隠された力がある事を彼は知っていた。

そして、メメントはアビスに隠されたその力を解放した。


「魔力……解放……!!」


彼女がそう呟くと、アビスは赤い光を身に纏い、先程まで優勢だったニンギルを力で押し返した。


「赤い光……あれは……?」


「魔力解放……ゴーレムでも使えるのか。私の時代では人が使うものだったんだがな。」


魔力を解放する姿を見て驚くサイに、ジェネシスタはそう説明した。

その直後、アビスはその力でニンギルのカッターを弾き飛ばしてみせた。

あっという間に優位に立ったアビスは、この隙を逃すまいと、ニンギルに詰め寄った。

カッターを失った上に、この距離なら背面の魔弾砲も使えない……自分の敗北を悟ったルージュは腹を括った。


「貴方……以前よりお強くなったのね。」


「お世辞を言ったって手を止めはしないさ。」


その決闘は、攻撃手段を失ったニンギルの頭部を、アビスが短剣で破壊する事で決着がついた。


「勝者……メメント・サーベラス!」


こうして四天王対四天王、ルージュ対メメントの戦いは終わった。

だが、彼女らの決闘は、後に起こる新たな決闘の予兆を孕んでいた。


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