第19話「夜は焼肉」
ジェネシスタが倒した2匹のドスバードの死体は、彼女の収納魔法で、目には見えない特殊なボックスに収められた。
サイとエルストは早速それを換金所に持っていく事にした。
換金所はモンスターの解体を引き受けており、モンスターを解体して、モンスターの部位を換金すれば、その部位ごとに応じた金額へと換金されるのだ。
彼らは街に戻り、換金所へと足を運んだ。
「換金所かぁ。昔は世話になったな。伝説級のモンスターの死体を持っていって換金してもらおうとした時は拒否されたんだけどね。」
「そんな事があったんだ……。」
ジェネシスタによると、あまりにも珍しいモンスターの素材は換金できないそうだ。
サイは、換金できないモンスターなんて一体どんなモンスターだろうかと考えながら、換金所の扉を開いた。
換金所の中には冒険者のような男女が数人おり、大きな机にモンスターの死体を乗せ、それを係員に見てもらっていた。
係員は彼らとやり取りをした後、モンスターを奥の部屋へと運んでいった。
その部屋が解体室で、そこでモンスターを解体するのだ。
モンスターの死体の部位は、食べられるか、金になるか、その2択で分けられる。
換金する為のモンスターを討伐する際は、あまり傷を付けずに倒すことが冒険者達の間で重要視されている。
サイとエルストは係員を呼び止めてモンスターを見せようとしたが……。
「いてて……。」
「どうしたのエルスト?」
「さっきドスバードに捕まえられた時、爪が腹に食い込んで、ちょっと怪我しちまった。」
お腹を痛めるエルスト。そこには、ドスバードとの戦いで負った傷が。ジェネシスタはそれを回復魔法、ヒールで治癒する事にした。
「細菌が入ると危ない。私が治癒しよう。」
「すまねぇ。」
「ヒール。」
傷は浅かったので治癒は手早く終わり、エルストは彼女に感謝し、サイは改めて近くの係員に声をかけた。
「すみません。モンスターの解体と換金をお願いしたいのですが。」
「分かりました。ではそこの机にモンスターを置いてください。モンスターはどこに?」
「ここにある。ボックス。」
係員にモンスターはどこかと聞かれたので、ジェネシスタがボックスと唱え、現れた空間の歪みのようなものに手を突っ込み、中から2匹のドスバードを取り出した。
「収納魔法ですか、大したものですね。」
「いえいえ。」
収納魔法を使える事を驚かれたジェネシスタは鼻が高くなった。
机に置かれた2匹のドスバードを見た職員は、しばらくそれをまじましと観察した後、解体室から荷車を持ってきて、それにドスバードを乗せて解体室に向かった。
「良い金額になるといいな。」
「そうだね。」
そして彼らが待つこと数十分で解体は終わり、解体室から、バラバラになったドスバードを持った係員が出てきた。
「お待たせしました。こちらのドスバードのトサカが2つで銀貨5枚、肉が全部で銅貨8枚、傷の付いてない綺麗な羽毛が全部で銀貨3枚となります。」
それが、ドスバードの各部位に割り振られた金額だそうだ。
ドスバードは2級冒険者でないと戦えない、そこそこ強いモンスターなので、その部位は銀貨相当のものだが、肉の味は低級のモンスターの肉と大差無いので銅貨8枚とされている。
「トサカと羽毛で銀貨8枚か!すげぇな!」
「うん!ジェネシスタのお陰だよ!ありがとう!」
「フフン!もっと褒めたまえ!」
この世界には金貨、銀貨、銅貨、3種類の貨幣があるのだが、金貨はまず一般市民ではお目にかかる事の無いレベルの高価なものだ。
なので銀貨でもサイやエルストなどの一般市民からすれば十分高価なものだと感じるのがこの世界での一般常識である。
彼らは運が良い事に、彼らが倒した2匹のドスバードのトサカと羽毛は、他の個体のトサカよりも上質なものだと換金所の係員は言った。
銀貨相当の上質なトサカと羽毛を持った個体と出会えたのが、彼らにとっては幸運だった。
「じゃあサイ、トサカと羽毛、それと肉を換金して……。」
「いや、肉は換金したくないな。」
「なんでだ?」
エルストはドスバードの売れる部位を全て換金しようとしたが、サイは肉は換金する事を反対した。
エルストはサイにその理由を聞くと、彼はこう答えた。
「今夜家でドスバードの肉食べようよ。一緒に!親睦を深める為にもね?」
「サイ……あぁ、今夜は焼肉だ!
肉は換金しません!」
「かしこまりました。ドスバードのトサカと羽毛、計銀貨8枚と交換ですね。しばらくお待ちください。」
そうしてサイとエルストは再び待たされ、数分待った後係員に呼ばれ、銀貨8枚を手渡しされた。
彼らはそれを1人銀貨4枚に分け合い、肉はサイの家に持ち帰った。
その日の夜、エルストはサイの家に向かい、トループ一家と共に焼肉を楽しむ。
キリマもレイブンも、サイに友達ができた事を深く喜んだ。
「ようサイ!来たぜ!」
「あら、サイのお友達?いらっしゃい。」
「……こんばんは。」
「エルスト。今夜はたくさん肉食べようね!」
「おう!」
サイがマージクル学園に入学して2ヶ月、孤独だった彼の周りには、気がついたら友と呼べる存在が5人もできていた。
彼は新たに生まれた友情を、これから大事にしていこうと決意しつつも、その日の夜は焼肉を楽しんだ。
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