第18話「結ぶ友情」

サイとエルストは、山の頂上でドスバードが来るのを待ち続けた。

エルストは、数日前にこの山にドスバードが現れたという話を街で聞いて、それを討伐する事を決めたのだ。

彼らが待ち続ける事数分、ついにその時が訪れた。


「グワァー!グワァー!」


「来た!」


ドスバードの鳴き声を聞いたエルストは、腰に携えた剣を抜き、戦闘態勢に入った。

そして、翼をはためかせながら、空から山頂に降り立つ1匹のドスバード。

目の前に現れた標的を前にして闘志を燃やすエルスト。


「サイ、彼を止めた方がいいんじゃないかね?」


「エルスト君!やっぱり戦うのは……」


「お前は引っ込んでろ!!こいつは俺が倒す!!」


サイは予定通りエルストを止め、ドスバードはジェネシスタに倒してもらおうとしたが、彼はそれを払い除ける。


「来い!!」


「グワァ!!」


剣を構えるエルストを敵と見なしたドスバードは、口から火球を吐き出し、標的を攻撃しようとした。


「はっ!!」


だが、エルストは剣を力強く横に振って火球を弾き飛ばし、敵の攻撃から身を守った。


「パワーアップ!!」


そして今度はこちらの番と言わんばかりに彼は自身に身体強化魔法をかけ、全身の筋力を強化した状態でドスバードに突撃した。

エルストは剣を持ち上げ、そして振り下ろしてドスバードを攻撃する。



「はぁっ!!」


「グエッ!!」


エルストの攻撃を羽で防御して、羽毛と血が飛び散るドスバード。

彼の持っている剣は鉄製の物で、鉄製の剣の切れ味ならドスバードにもダメージを与える事ができるとされている。

自分の力ならドスバードにもダメージを与える事ができる、そう確信したエルストは、続けて剣による攻撃を仕掛けようとした。


「トドメだ!!」


「エルスト君!!」


「は……?」


その時、サイが彼の名前を叫んだ。何故サイが自分の名前を呼んだのか一瞬理解に及ばなかったエルスト。

サイとジェネシスタの目に見えていたものが、目の前のドスバードとの戦いに集中してた彼には見えていなかったのだ。


「グワァ!!」


「ッ!?」


彼の目の前に、突然2匹目のドスバードが姿を現した。

そのドスバードは、空中からの脚蹴りでエルストの剣を弾き飛ばす。


「もう1匹いたのか!?しまっ……」


焦るエルストの身体を、新たに現れた方のドスバードは脚で鷲掴みにし、空中に飛び立った。


「エルスト君!!」


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」


エルストの叫び声は次第に遠ざかっていき、彼の身体はドスバードによって宙を舞った。

彼は空中で必死に助けを乞うが、ドスバードは非情にも、彼を殺す為に、彼を空中で突き放し、地上に落下させた。


落下する彼の脳裏に浮かんだのは、後悔の念だけだった。

自分は無謀にもドスバードに挑み、結果殺される事となった。


最初こうなると分かっていればあんな見栄は張らなかっただろう、だがもう遅い。

彼はただ、立派な冒険者になりたかった、それだけなのに……。


「ネット!!」


そんな彼の身体を、大きな網が受け止める。サイが魔法、ネットを発動し彼の身体を受け止めたのだ。


「ドスバードは私に任せたまえ!」


「頼んだ!」


そしてジェネシスタは、2匹のドスバードを倒す為に飛び出し、サイはそれを見送った。

エルストは、手を出すなと忠告したサイに助けられ、彼に文句を言おうとしたが……。


「なんで助けた!?」


「死にそうな人を助けるのは当然の事だよ。」


「……俺はお前に酷い言い方をした。お前がカリバーに公開処刑されるのを見てざまぁみろって笑ったんだぞ?それに今回も……なんで!!」


「例え相手が僕を貶してくる人でも……僕は困っている人を助けたい。僕は人の役に立つ仕事に就く為にマージクル学園に入学した。それくらい……困っている人は見捨てられないんだ。」


「……サイ……。」


サイの言葉を聞いて、自分の行いを省みるエルスト。

そして、こんな自分を助けてくれたサイに感謝の言葉を伝えた。


「……すまない、ありがとうサイ……。」


「うん。」



一方で、ジェネシスタは、ドスバードと空中戦を繰り広げていた。

宙を舞うジェネシスタの上下に1匹ずつドスバードが平行して飛んでいる。


「グォン!!」


「ッ!!」


その時、上のドスバードがジェネシスタを嘴で啄む攻撃をしてきたが、彼女はそのドスバードの上手に回ってそれを回避した。


「グァァ!!」


「来る……!!」


続けて、下のドスバードが体当たりを仕掛けてきたが、それも余裕を持って回避するジェネシスタ。


「今度はこっちの番だ!!サンダーショット!!」


今度はジェネシスタがドスバードに攻撃を仕掛ける。

彼女は両手の平から一つずつ、計2つのサンダーショットを放ち、それを2匹のドスバードに直撃させた。


サンダーショットは雷属性の攻撃で、それを食らったモンスターは体が麻痺して動けなくなる。

2匹のドスバードは身動きが取れないまま落下し、そして地面に身体を強く打ち付けられ、力尽きた。

ジェネシスタは、見事2匹のドスバードを討伐する事に成功した。


彼女はサイとエルストの方に近づき、エルストに問いかけた。


「君は私の事を甘いヤツと言ったね。これでもまだ言うかい?」


「……。」


ジェネシスタは言い過ぎではないかとサイは思ったサイは、エルストの前に立って自分の意思を明かした。


「僕だって、モンスターを殺せるぐらい心の強い人になりたいと思っている。君にはその気概があるんだから、君は凄い人だよ。」


「サイ……。」


エルストは彼の言葉に心を動かされたような気がした。

そして今までの言動を悔い改め、叶うのならサイの友達になりたいと考えた。


「サイ……あのモンスター、一緒に換金所に持っていこうぜ!!俺は何も役に立ってないから素材はいらねぇけどよ。」


「いや、君も頑張ったんだから素材は2等分にしよう。」


「いいのか……?」


「うん。」


「サイは優しいなぁ。エルスト、感謝することだね。」


「ジェネシスタ……。」


「あぁ、ありがとうな。サイ。」


そうして、今回の件はひとまず幕を閉じたのだった。

サイとエルストの蟠りは解け、この日2人は友と呼び合える関係へと昇華した。



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