第17話「無謀な勇気 」

「サイ君じゃん!どこ行くの?」


ジェネシスタと共に家を出たサイは、日課のジョギングをしていたアンジュに出会った。

動きやすい服装で、首にタオルをかけて足早に歩くアンジュは、サイと出会ったので彼に気さくに声をかけた。


「ちょっと、東の山に行こうと思って……。」


「何しに行くの?」


「それは……あれだよ、ほら……魔法の練習!魔法の練習をする為に行くんだ。それじゃ!」


「行ってらっしゃーい。」


サイは魔法の練習をする為に東の山に行くのだと嘘をついてその場を切り抜けようとした。

そしてアンジュは簡単にサイの言葉を信じたので、少しも疑われる事はなく、彼女はサイを見送った。


だが彼の真の目的は、東の山にモンスターのドスバードを討伐しに行った同級生のエルストを止める為である。

彼は冒険者になる為に日々鍛錬を積んでいると言っていたが、それでもドスバードは2級冒険者でないと倒せない程の力を持つモンスターだ。


「サイ、君が責任を感じる事はないんじゃないかい?」


「でも……ジェネシスタがドスバードを撃退して、それを見たエルストがドスバード討伐を決意したのなら、僕の責任と言えるんじゃないかな。」


「そうかい。」


そしてエルストがドスバードに挑む切っ掛けを作ったのは自分のせいだとサイは思っている。

だから彼は責任を感じてエルストを助けに行こうと考えたのだと、彼は事前にジェネシスタに明かしておいた。


「ここが東の山か……入るのは久しぶりだ。行こう、ジェネシスタ。」


「あぁ。前世では山は虫がいて嫌だったが、今の私はゴーレムだ。虫に刺される事も無いから問題無いな。」


東の山に到着したサイとジェネシスタ。サイはエルストを探す為に山の中へと入っていった。そして山道を登る事役10分で、彼らはエルストを発見した。

彼は一振りの剣を携えていた。その剣でドスバードを討伐するつもりなのだろう。


「あれ1本でドスバードに挑もうなんて、なかなか気骨のある奴じゃないか。」


「そんな事言ってる場合じゃないでしょ。確か山頂にドスバードが好む果実がなってるんだよね、この山。」


サイの言う通り、この山の最も高い所には、ドスバードの好む果実が実る木があると言われている。

そこにドスバードが現れる事をエルストが知っているのなら……そう考えたサイは、エルストよりも一足先に山頂に向かう事を決めた。だがその時……。


「ジェネシスタ。先回りして僕達が先にドスバードを……」


「サイ、上!」


「え?」


「ゲー!ゲー!」


その時、彼らの頭上に1匹のモンスターが姿を現した。大きさは人の子供ぐらいの大きさで、羽を持つ黒いモンスター、ワイルドクロウだ。

そして、それがサイとジェネシスタに目を付けた事が悪かった。

ワイルドクロウの鳴き声を聞いたエルストに、そこにサイとジェネシスタがいる事を知られてしまったからだ。


「サイ!ジェネシスタ!つけてたのか……!」


「しまった!バレて…… 」


「サイ!今はワイルドクロウを追い払うのが先だ!ファイヤーショット!」


エルストに発見され焦るサイだったが、 ジェネシスタは先にワイルドクロウを追い払う事を決めた。

彼女は手の平からファイヤーショットを放ち、それをワイルドクロウにぶつけた。

古くから、鳥型モンスターの弱点は火属性だと言い伝えられている。

なのでそれを食らったワイルドクロウはたまらずその場から飛び去り、ジェネシスタは敵を撃退する事に成功した。


だが、一安心したサイとジェネシスタと違って、エルストはまたも彼らに突っかかってきた。


「ふぅ、なんとかなったね。」


「なんとかなったじゃねぇよ、アイツがまた襲ってきたらどうすんだよ!!確実に息の根を止めてねえと!!」


「ま、またさっきのモンスターが襲ってきたらそうするべきじゃないかな。殺すのは相手に殺されそうになった時にやるべき事だよ。」


「モンスターはいつだってこっちを殺すつもりで襲ってくるぞ、甘いヤツめ!!」


「う、うん……そうだね。」


サイとエルストのやり取りは、サイがエルストの言い分に押される形で終わった。


「エルスト君は自分の意思を曲げるのが苦手な子だと見たね。」


「ジェネシスタ……。」


「とにかく俺はドスバードの出る山頂に向かうから、着いて来たければ勝手にしろ!!ただし、俺とドスバードの戦いには手出しするなよ!! 」


エルストは腰の剣を抜き、それをサイに向けてそう忠告した。それを渋々承諾するサイとジェネシスタ。

彼らは山頂へ続く山道を歩き続け、ついに山頂へと到着した。

山頂には開けた空間が広がっており、脇の方にドスバードの好む果実、オランゾが成る木が何本かなっていた。


「ここにドスバードが来る、そうかいエルスト?」


「あぁ、俺がドスバードに勝つ所、しっかり見ておけてよ!!」


ジェネシスタの問いかけに対して、エルストは自信満々にそう答えた。

彼の父は2級冒険者で、毎晩その日倒したモンスターの死体を持ち帰ってはそれを調理して、美味しいご飯を彼に食べさせてくれた。


自分もそんな冒険者になりたい。そんな気持ちに胸を踊らせるエルストは、ドスバード討伐を皮切りに、さらに強いモンスターを討伐し、皆に自分の力を見せつけるという大きな計画を企てていた。


だが、彼の事を「とても自信に満ち溢れた勇気のある少年」と言えば聞こえは良いが、勇気と無謀を履き違える者はこの世界には少なくない。

彼が自分もその1人だと理解するのに、そう時間はかからなかった。


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