第16話「突然の……」
ジェネシスタは浮遊魔法、フライトアップで宙を浮きながら森の中を進んでいった。
サイの視界には彼女が見ている森の中の風景が写っている。サイは視覚共有を慣らした結果、その魔法にだいぶ耐性が付けられた。
サイのゴーレム、ジェネシスタは人の魂を宿したゴーレムなので、サイが動かさずとも自分の意思で動く事ができる。
しかし今サイがやっているのはゴーレム操縦術の授業。ゴーレムを操縦しなければいけないので、サイは魔法操縦桿を出現させ、それを握ってジェネシスタを操縦しているフリだけでも取り繕っていた。
山の中を進むジェネシスタだったが、彼女の目の前に道を塞ぐようにそり立つ大きな岩が姿を現した。大人数人がかりでも動かせそうにない程その岩は大きかった。
「障害物か……。」
サイの前に山を登った生徒は、遠回りになるがゴーレムを迂回させて岩を避けたが……。
「相手は岩だ。少々本気を出しても良いだろう!ダークファイヤーショット!!」
ジェネシスタは岩を破壊する事にした。彼女が両手を天に掲げると、燃え滾る黒い炎の球が形成され、ジェネシスタはそれを岩に向けて放った。
それが岩に直撃した瞬間、爆炎と土煙が巻き起こり、土煙の中から姿を現した岩は粉々に砕け散っていた。
「あれズルだろー!!」
「セーフだ。あれもゴーレムの力のうちだからな。」
生徒の1人はズルではないかと先生に訴えたが、先生は問題ないと返した。なんとか見逃されたサイとジェネシスタであった。
自分のゴーレムながら、凄いな……とサイは思った。そしてジェネシスタは岩を突破し、しばらく山の中を進み続け、山に入ってから数分でリッカのなる木を見つけた。
「木の実は……あれか。」
ジェネシスタは木になっている赤い実を見つけると、その場所まで浮上して、木の実をもぎ取ろうとした。その時、彼女やサイ、そして先生にとっても予想外の乱入者が現れた。
「グワァーッ!」
ジェネシスタ目掛けて空から舞い降りる影が1つ、いや1匹。成人男性並の大柄な身体に、緑、青、黄などのカラフルな羽毛を持つ鳥型モンスター、ドスバードだ。
「モンスター……!?」
「ドスバードか。リッカが好物らしいな。相手は私に敵意を向けている。戦うしかないな!」
予想外の敵を前にして、ジェネシスタは戦うことを決めた。サイは「危なくなったら逃げてこい」、そう彼女に呼びかけたが、彼の声はジェネシスタに届く事は無かった。
「まさかドスバードが現れるとは……サイ君、危なくなったら直ぐにゴーレムを撤退させるんだ。分かったね?」
サイは先生にそう忠告され、分かりましたと首を縦に振った。
「先生はこっちに向かってるだろうか……まぁ彼の手を煩わせる必要無いんだけど!」
ジェネシスタはそう言いながら、ドスバードの口から放たれた火球を回避し、攻撃後の相手の隙をついて攻撃に打って出た。
彼女は手の平から雷の球、サンダーショットを放った。それを受けて、痛みから声をあげるドスバード。
「グワァッ!!」
「逃げないと死ぬぞ?ストーンショット!」
彼女は続けて石の球、ストーンショットを撃ち、それを標的にぶつけた。それを食らったドスバードは、目の前の敵は相手にするには分が悪いと判断し、空を飛んで逃げていった。
「やった……!」
空中に逃げていくドスバードを見て、なんとかなったと一安心するサイ。
ジェネシスタは敵がいなくなった事でようやくリッカを採取する事ができた。彼女はそれを1つ抱えて下山し、それを先生が確認した事で無事サイは合格となった。
「どうだい?サイ、私の力は。」
「あぁ、凄いよジェネシスタは。」
「フフン。」
目的を達成した事をサイに自慢するジェネシスタは、彼に褒められた事で気分が良くなった。
前世で人を困らせるモンスターを討伐したジェネシスタは、多くの人達に感謝された。その時も彼女は気持ちが良かった。
彼女はその時の事を思い出し、やっぱり自分にはこれが性に合うなと実感したのだった。
「木の実の採取に成功した上にドスバードを撃退するなんて……サイ君のゴーレムは凄いな。ドスバードは2級冒険者じゃないと相手にならないレベルのモンスターだぞ?」
先生もサイとジェネシスタを褒め讃え、サイもまたジェネシスタと同様、良い気分になった。だが、それを快く思わない男子生徒が1人いた。
「撃退だとよ!討伐じゃなくて撃退!ダセーよな!」
ハイゴーレムを持った茶髪の少年、エルストはサイとジェネシスタを非難した。それを聞いたサイは突然突っかかられて戸惑ったが、ジェネシスタは屈しなかった。
「何が言いたい?君はあのドスバードを討伐できるとでも?」
「俺は冒険者になる為に体と魔法を鍛えてるんだ。あんなモンスター討伐できるさ!アンタと違ってな!」
尚も強気な態度を取るエルストに対して、ジェネシスタは呆れていた。
「そうかい、ならやってみな。」
「見てろよサイ!俺はお前のゴーレムなんかよりも強いって事を証明してやる!明日、この街を出た所にある東の山で俺はドスバードを狩る!狩った証にその羽毛を持って帰るから、覚悟しておけよ!」
エルストは、サイの了承も得ず明日ドスバードを狩りに行く事を宣言した。突然こんな事を言われて戸惑うサイだったが、彼はエルストが危険な目に遭わないか心配もしていた。
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