第12話「勝利者と敗北者」

「喰らえ!!」


キーンは決闘が開始して早々に攻撃を仕掛けてきた。ブロンザーが宙に手を振りかざすと、ジェネシスタの周りに魔法陣が4つ現れた。


「来るか。」


相手の攻撃に備えて全方位に結界を張るジェネシスタ。次の瞬間、4つの魔法陣から魔弾が一斉に発射された。

ジェネシスタは結界を張っていたのでなんとか攻撃から身を守る事ができたが、魔弾は絶え間なく降り注ぎ、結界を攻撃し続けた。


「あれ程の弾幕、撃たれたら結界が破れてしまうのでは……?」


「いえ……ジェネシスタの結界はそんなやわじゃないですわ。」


観客席から決闘の様子を見ていたルージュとミリー、そしてヘレス。ミリーはジェネシスタの結界が壊れてしまうのではないかと心配したが、ルージュはそうは思っていなかった。


魔弾の雨は30秒ほど降り続け、弾幕により発生した土煙でジェネシスタの姿は隠れていたが、しばらくすると煙が晴れ、中から彼女の姿が出てきた。

その姿を見て、キーンは悔しそうな表情を、サイは安堵のため息をついた。


「野郎……無傷だ!」


「ジェネシスタ……。」


キーンの言う通り、ジェネシスタは無傷だった。結界は破壊される事無く、彼女を

守りきったのだ。

ジェネシスタは結界を解除して、手元に光刃を形成した。そしてそれを構え、敵に向かっていくジェネシスタ。


「やるかい?カリバー。」


「嫌、敵が油断した時がチャンスだ。今は抑えろ。」


どこからか決闘の様子を見ていたガリスとカリバー。ガリスは、魔法操縦桿を握り、ジェネシスタの様子を伺っていた。カリバーもその時が来るのをじっと待っていた。


「行くよ!!」


そしてジェネシスタは魔法、フライトアップで宙に浮き、バーニアを吹かしてブロンザー目掛けて突進した。


「来る……今だぞガリス。」


「今だ!!」


突進するジェネシスタを前にして小声で呟くキーン。それに呼応するように別の場所にいるガリスが操縦桿のスイッチを押すと、決闘舞台の地面からゴーレムの手が現れた。

だが、それを目視できる者はいない。そのゴーレムは、魔法「インビジブル」で身体を透明にしていたのだ。


「足元に気配……!?」


ジェネシスタがその気配に勘づいた時には既に、ガリスのゴーレムは彼女の右脚を掴み、宙を舞うジェネシスタを地面に叩き落としていたのだ。


「なんだ!?」


サイは困惑した。突然ジェネシスタが地面に落ちる姿を見て何事かと考えた。ジェネシスタがあんなヘマをする訳が無い。

きっと何か理由があるはずだと考えたが、

サイから見れば、「ジェネシスタが墜落した」という事実しか分からなかった。彼にはガリスのゴーレムは見えていないからだ。


「やったぞ!!ジェネシスタの動きを止めた!!」


「やれキーン!!」


まだジェネシスタの動きを止めたという段階で、決闘に勝った訳ではないのにガリスとカリバーの気持ちは昂っていた。今ならジェネシスタを、サイをやれると2人はそう確信しているからだ。


「今だ!」


キーンはブロンザーに腰の剣を抜かせ、そしてジェネシスタ目掛けて突撃させた。


「無駄だよ!」


ジェネシスタは動揺を見せずに冷静に光刃で足元のゴーレムの腕を切り裂き、自由の身となった。

そして振り下ろされたブロンザーの剣を光刃で受け止めるジェネシスタ。


「インパクト!!」


彼女はその片手間で魔法、インパクトを発動。地面を抉り飛ばし、その中にいたガリスのゴーレム、バッシャーが顕になった。


「地面の中にゴーレムが……?」


「け、決闘で2対1はご法度ですよね?」


ミリーとヘレスの言葉を聞いたルージュはこう返した。


「ここは彼女らに任せましょう。」


ここは「彼女ら」の出番だと感じたルージュは、キーンとその裏にいる者達の処罰をそれに任せる事にした。


「2対1とは姑息な真似をするねぇ!!」


ジェネシスタはそう言いながらバッシャーの首を切り落とした。それを見て焦るキーン。


「あいつ、ヘマやりやがって!!」


「あいつって誰の事だい?」


「うるせぇ!!テメエらには関係ねぇ!!」


仲間を倒され、ヤケになったキーンは、無謀にもブロンザーにジェネシスタを攻撃させたが、彼女はそれを躱し、そしてブロンザーの首を切り落とした。

ジェネシスタが勝つ瞬間を見て冷や汗を

垂らすキーン。彼は不正がバレた上に決闘にも負けてしまった。彼の脳裏には、色々と危惧するべき事が思い浮かんだ。


「勝者、サイ・トループ!!」


審判の一言で、勝者はサイだと決められた。その様子を見てある場所からキーンへの愚痴を垂れ流すガリスとカリバー。


「お前ら何やってんだよ!!」


「馬鹿な……絶対勝てたはずなのに

……!!」


「やっぱそーいう事でしたか。」


その時、2人がいた部屋の扉を開けて1人の女子生徒が現れた。彼女はルージュとサイの友人、アンジュとトライアだった。

彼女達は数人の決闘委員会の生徒を連れて

この場に来ていた。


「なんでここに!?」


「ルージュ様に言われてましたから。アンタ

らがなにか怪しい事しそうだからマークしておけって。」


焦るカリバーに、アンジュはそう返した。


「一生徒の分際で生意気に!!俺は四天王だぞ!!」


追い詰められてもなお虚勢を張るカリバー。それに対してトライアは自分達の秘密を明かした。


「私達は一生徒じゃありませんよ。ルージュ様の友達ってのは表の姿……その実態はゴーレム決闘で不正を行う生徒を監視する隠密行動隊、通称「ロッソ隊」。取り巻きだの、ファンクラブだの、烏合の衆とは訳が違うんですよね。」


ロッソ隊、その名前を聞いてガリスは動揺した。噂話でしか聞いた事のないそれが、まさか実在していたとは……彼はそう考え、身を震わせた。


「ルージュ様から伝言です。カリバー君は裏で糸を引いてサイ君を嵌めようとしたって事で、この件は君の両親に話させてもらいます。」


「そんな!!」


カリバーは、アンジュから伝えられた言葉を聞いて絶望した。こんな事をしていたと両親にバレたらシイハ家の名に泥を塗るも同然の事だ……彼は膝から崩れ落ち、床に手を着いた。


「しっかり反省してください。」


トライアがそう言うと、決闘委員会の生徒達がカリバーとガリスを拘束し、委員会室へと連れて行こうとした。その最中に足を止め、カリバーは最後にルージュに助けを乞うた。


「待ってくれ!!ルージュにこう言ってくれないか?四天王のよしみだろ!?助けてくれって!!」


「ならルージュ様から聞いた事をそのままお伝えします。残念です。四天王にこの様な低俗な行為をする輩がいる事がとても残念でなりません。私から言える事はこれだけです。」


アンジュはそう言ってカリバーの願いを一蹴し、その場を後にした。


「クソォーーーー!!」


そこには、カリバーの悲痛な叫びがこだました。

そして、カリバー、キーン、ガリスは今回の件のペナルティとして、半年間ゴーレム決闘権を剥奪される事となった。

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