第3話「負けず嫌いのカリバー」

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、」


サイは、逃げるように決闘場を後にした。自分のゴーレムが、彼の意思と反して動き、プチゴーレムでありながらハイゴーレムを仕留め、挙句の果てに「それ」は200年前の魔導王、ロード・ジェネラルを名乗ったのだ。


彼の頭はいまにもパンクしそうだった。彼を追いかける生徒は誰もいなかったので、彼はすぐに家に帰る事ができたのが彼にとっては救いだったのだが。


「おかえり。」


「…………。」


家に帰ると母がおかえりと挨拶をしてきたのだが、今のサイにとってはそれどころでは無い。彼は自室に入るとポケットから自らのゴーレムを取り出し、彼女に問い質した。


「貴方は一体なんなんですか?」


「言っただろう?魔導王ロード・ジェネラルだと。少なくとも私の時代で私の名を知らぬ者はいなかったぞ?それよりもどうだった?私の戦う勇姿をしっかり瞳に焼き付けてくれたかい?」


困惑するサイとは反対に、ロードは落ち着いていた。


「なんで、貴方ゴーレムになっても平気なんですか?貴方人間だったんでしょう?学校の教科書にもそう書かれているんですよ?」


「そりゃあ私だってゴーレムになった事は意外だったよ。でも私の魂がこのゴーレムに引き寄せられて、私はゴーレムになってしまったんだ。」


「なんでそんな事が……?」


「このゴーレムの核、ルビウム鉱石で作られたものだろう?」


「何故それを知ってるんですか?」


「そりゃあ、私が前世でゴーレムを作る時、ルビウム鉱石の核は愛用してたからね。学校の教科書にそう乗ってないかい?」


「……そうですけど、それとゴーレムになる事になんの関係が……?」


「このゴーレムの核、どこで手に入れた?」


ロードは立て続けにサイに質問をし、サイはそれに対して答えを話した。


「雑貨屋で買いました。店主によると、この核はダンジョンで拾ったそうです。」


ダンジョンとは、モンスターや貴重な資源の湧く場所である。そこに潜りモンスターを退治したり、資源を採取する職業「冒険者」という物もこの世界では存在している。

ダンジョンは現れるモンスターの危険度によって、低級、中級、上級によって分けられている。


「そのダンジョンはなんという場所だ?」


「えーっと、魔獣の祭壇、と言ってたような気がします。」


「魔獣の祭壇か。前世でそこに行ったことがあるのだが、その時私、そこでゴーレムの核を落とした事があるんだよね。」


ロードの言葉を聞いたサイは、ハッとして彼女に確認した。


「まさか、この核って……?」


「その可能性が高いな。この核が私の、主人の魂を引き寄せたのだろう。」


「200年前って、確かルビウム鉱石は希少な物だと聞いた事があります。」


「あぁ、私は魔導王だったからそんなもの難なくゴーレムのパーツとして運用できたけど、一般人からすればかなりの代物だっただろう。ん?200年前はそうだった?」


「はい、今ではこれを使う為の技術が進んで希少なものでは無くなったんです。」


「そうか、物の価値というのはそうやって変わり行くものだったなぁ。」


ロードはゴーレムの身体で身振り手振りをしながらサイと話をしている。


「なんでロードさんは魔獣の祭壇に足を運んだんですか?」


「そこで上質なゴーレムの素材を手に入れられると聞いてな。それを取りに行ったんだ。そして狭い所を探索させる為にプチゴーレムを持って行ったのだが、その時にそのゴーレムの核を落としてしまったらしい。」


ゴーレムの身体は、様々な素材で作られる。鉱石や土塊、鉄などの素材を魔法で変形させてゴーレムにするのだ。

魔獣の祭壇では、200年前はゴーレムの上質な素材を手に入れる事ができたとロードは語った。


「そうなんですね……。」


「まぁ君にとっては最強の魔術師の魂が宿るゴーレムを手に入れる事ができてハッピーじゃないか!あまり難しく考えるなよ!」


「そ、そう言われても……。」


「サイ?誰と話しているの?」


その時、サイの部屋の扉を母のキリマがノックした。それに対してサイは「自立思考型のゴーレムを作ったんだ。」と言って切り抜けた。


その翌日、サイはロードを持って学校に登校した。カリバーがまた目を付けてくるかもしれない。そう考え、あくまで護身用としてロードの魂が宿るを携帯していた。


そして案の定、彼は取り巻きを引き連れて昼食中のサイの前に現れた。


「おうザコサイ!!」


「なぁカリバー?こいつのゴーレムどう考えてもオーバーチューンの不正ゴーレムだよなぁ?」


取り巻きの1人はカリバーにそう聞いた。それに対して彼は「間違いねぇ。」と答える。

ゴーレムは決闘用の道具であって、人を傷つけるという事があってはならない。その

為に火力を抑えなくてはならない

ように定められている。

その限度を超えた改造をしたゴーレムがオーバーチューン、または不正ゴーレムと呼ばれている。


「そんな不正なゴーレムは破壊しなくちゃなぁ!!」


カリバーは怒り半分、喜び半分の表情を顔に浮かべながらサイのゴーレムを取り上げる。焦るサイだが、ロードはそれでも平静を装った。


「最近の若い子はすぐに熱くなるんだねぇ。」


「このゴーレム、またひとりでに喋りやがったぞ!」


「自立思考型ゴーレムって奴か?」


ロードの声を聞いた取り巻きは、おもちゃを見て喜ぶ子供のように大袈裟に騒ぎ立てた。


「こんな奴!」


カリバーはそう言いながら破壊衝動に駆られ、ロードの左腕を右手で力づくでねじ切ろうとした。


「よせ。」


しかし、ロードが魔法によってカリバーの右手の動きを止めた。突然魔法を使われて驚くカリバー。彼は怒りに身を任せ、左手でロードの身体を地面に叩きつけようとした。


「このッ!」


「無駄だよ。」


だが、ロードは地面に叩きつけられる直前で、浮遊魔法を使い、落下する途中でふわりと体を浮かせ、宙に体を浮遊させた。


「酷いなぁ、人の事を不正ゴーレムだなんだのと。怒りはコントロールできないとダメだよ?」


「お前!!俺と決闘しろ!!俺が勝ったらお前を不正ゴーレムとして決闘委員会に報告してやる!!」


ロードを思うようにできない事に大いに腹を立てたカリバーは、額から汗を垂らしながら鬼のような形相でサイに決闘を申し込んだ。それを聞いて困惑するサイと、それでも

動じないロード。


「じゃあ、僕が勝ったら……?」


「そうだ、君は何を賭けるんだい?」


「うるせぇぇぇ!!俺は四天王だぞ!?四天王に指図するなぁぁぁぁ!!」


カリバー・シイハは17歳の3年生である。そんな彼が子供のように怒鳴り散らす様はロードからすれば滑稽なものであったが、弱気なサイは断れずに決闘を引き受けてしま

った。

四天王の威厳なんてあったもんじゃない。決闘はその日の放課後に執り行われる事になった。彼がロードによって痛い目を見るまで、そう時間は掛からなかった。



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