ぬいぐるみに入っていた言葉(KAC20232)

ミドリ/緑虫@コミュ障騎士発売中

ぬいぐるみ

 洋平ようへい祐希ゆうきは幼馴染みだ。高校生の今も、大抵どちらかの家で過ごしている。


 祐希はもてる。この間のバレンタインでは、紙袋一杯のチョコをもらってきた。


 義理チョコ数個だった洋平はその恩恵にあずかったが、美味いが面白くはない。


 ふと思い出して苛つき、祐希のベッドの上からベッドにもたれる祐希の肩を蹴った。


「何すんの」

「うるせえ、ひとりもてやがって」


 ゲシゲシ蹴っていると、祐希の枕元に可愛らしい兎のぬいぐるみがあるのを発見する。首の所に「Push Me!」というタグがあった。裏面を読む。手を引っ張ると録音、お腹を押すと再生とあった。


「何これ」

「あ、触るなよ!」


 それまで大人しく蹴られていた祐希は、血相を変えて洋平の手からぬいぐるみを奪うと、机の上に置いてしまった。


 女子のメッセージ入りか。苛ついた洋平は「つまんねえし帰る」と立ち上がる。


「え、来たばっかじゃん」

「帰る」


 不貞腐れ顔で素っ気なく返すと、祐希も立ち上がる。


「待てよ。何切れてんの」

「別に」

「ゲームしようって言ったのお前だろ」


 内心ぐちゃぐちゃの洋平は、意地悪を口にした。


「じゃあ、さっきのぬいぐるみの録音、聞かせろよ」

「いや、無理」

「じゃあ帰る――痛っ」


 祐希が、洋平の手首をきつく掴んだ。目が怖い。


「……聞いても帰るなよ」

「お、おう」

「引くなよ」

「わ、分かった」


 一体どんな凄い声が入ってんだ。洋平が驚いている間に、祐希はぬいぐるみを取ってくると、ずい、と突き出した。


「押せよ」


 真剣すぎる眼差しに、洋平はヒヤリとする。


「や、やっぱりいい」

「押せ」


 低い声で言われ、洋平は観念してぬいぐるみを受け取り、腹を押した。


 すると。


『洋平好きです。付き合って下さい』


 という声がする。


 目を見開いた洋平が、尋ねた。


「付き合ったら俺がお前のものになるの?」

「違う。俺がお前のものになるんだ」


 暫し無言ののち


「……へへっ」


 洋平が小さく笑った。

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