12 祭りは盛大に

黒幕は多忙な校長や理事長が他所から雇い入れた教頭だった。

「この学校にどれだけの経費がかかると、必要だと思っているのです。寄付金を集める為にも必要悪だった。大体こんなところに大事な子供を押し込めているのは親じゃないですか」

手錠をかけられた男は屁理屈をつけて喚いた。龍造寺は一足先に学校を逃げ出した。

人任せにした校長は反省し退任した。理事長が委員会を開いて学校運営を見直した。通いの生徒も受け入れて、地元にも開けた共学の高校に等々の案が出て、来期の脩湧館がどんな学校に変貌するか計り知れない。



「お前、あんな奴にだけはなるなよ」

性懲りもなく叫んでいた教頭を見て、佐野が心配げに祐太郎に言う。

「何でですか。それより鳴海君を鍛えましょう」

あれからどういう訳か、祐太郎達にくっ付いている鳴海を振り返った。


「本気だったのぉー!?」

鳴海は佐野と祐太郎に引きずられて柔道部に入部届けを出したが、柔道部連中が喜んだのは言うまでもない。


事件はどういう訳か公にならず内々で収められた。札付き不良の何人かが退学して事件は闇に葬られた。脩湧館の生徒であっても、真相を詳しく知るものは当事者以外は殆んどいない。



 * * *


「ラプンツェルも今年が最後だ。景気よくやろう」

生徒会室である。那須が景気よくぶち上げて皆がオー!!と声を揃えた。小宮は鳴海と一緒に訴える側に回った。

事件が終わった後、那須は生徒会長を辞任すると言ったが、皆に引き止められた。

そして脩湧館の春の寮祭が始まったのだ。

ラプンツェルたちは三つある寮の建物の一番上の部屋にいる。その艶姿を披露した後、最上階で待つのだ。


「どういうゲームなんですか」と祐太郎が聞く。

スケスケの白い衣装に赤い広幅の帯。頭に長い黒髪の鬘を被れば、化粧をしなくてもそこにゲームの中のおてんばなヒロインが出来上がる。


「魔女がラプンツェルを守る。王子がラプンツェルを落とす」

側に従うのは那須以下三年生の面々だ。皆、魔女よろしく長いスカートをはいている。

「争奪戦だ」

かくて祭りの火蓋は切って落ちされた。



三人のラプンツェルは装いを凝らして、皆の前を練り歩いた。嫌が応にも士気が上がる。そして定められた塔の上で待つ。


一年と二年は王子側になる。どの塔に上るかは各自に任されているが、大体いつも同じ位の人数に別れる。白いタイツを穿き、ミッドナイトブルーの制服に金の飾りをあしらって、赤いマントを羽織った王子達が、一番隊、二番隊となって塔に登ってゆく。


迎え撃つのは三年生である。長いスカートをぞろりと穿いた魔女に扮して、王子達に攻撃を仕掛けるのだ。

王子も魔女も頭に紙の風船を冠のようにつけている。これがつぶれると負けである。


人数は三年生の方が少ないが、上からの攻撃なので圧倒的に有利である。しかし一二年も数にものをいわせて押せ押せで攻めてゆく。


佐野は最後の三番隊にいた。もちろん祐太郎のいる塔にいる。手に持っているのはラップの芯で作った剣で、それが唯一の武器だった。それは魔女達も同様で、階段の上から登ってくる下級生を相手に獅子奮迅の働きを見せる。


それでも何度かの攻撃を受けて、三年生達もその数はかなり減じていった。

佐野は祐太郎を探して塔の中を駆けた。すでに殆んどの連中はリタイアして階下に行った。塔の中は静まり返っている。


その時、コトンと何かの音がした。バッとドアが開いて三年生が一人飛び出してきた。振り下ろすラップの芯で作った杖を難なく避けて、佐野はその上級生の頭の風船をつぶした。


「ちえ、やられた」

上級生がすごすごと階下に降りて行く。部屋の中を覗いたが誰もいない。

(どこにいるのか)

ラプンツェルの居場所が分からない。佐野は部屋のドアを片っ端から開けて行った。しかしどの部屋にも誰もいない。待てよと思った。先程の上級生が出て来た部屋の辺りが怪しい。物音は上級生が出て来たところとは別の方から聞こえたような気がする。


佐野は先程の部屋に戻った。隣の部屋はまだ見ていなかった。上級生が出て来たから。


ドアをバッと開いた。そのとたん、シュッと杖が振り下ろされた。佐野は危うくそれをかわした。体勢を整えると降り降ろした相手も、パッと引き下がって、もう一度身構えた。那須である。後ろに白い衣装に赤い帯を締めた祐太郎が立っていた。


佐野がニッと笑うと那須もにっこり笑った。苛められたというのはいつの話か、どこにも隙が無い。佐野がフェイントに振り下ろした剣を軽くかわして間合いを取った。


相手にとって不足は無かった。側には美しいラプンツェルが控えている。ご褒美はラプンツェル一年間独占権である。その間に恋が芽生え、愛を育んだという過去例が伝説になるほどあった。その祭りも今日が最後である。


二人は一歩も引かずに渡り合った。那須が杖を振り下ろす。佐野が避ける。佐野が払おうとする。那須が引き下がる。


ついに佐野は那須の身体に飛びついた。ゴロゴロとそこらを転がり押さえつけた。那須の杖が手から離れて、コロコロとどこかに飛んだ。


「観念しろ」

「くっ」

那須が残念そうに唇を噛む。手に持った剣を振り上げた。


グシャ!!

「何すんだよ、お前は!?」

「あ…、すみません」


何と佐野が剣を振り下ろす前に、祐太郎が佐野の頭の風船を壊していた。祐太郎の手には那須が落とした杖があった。


自分のした事が分からなくて、杖を手に呆然と佇む祐太郎。

「お前の負けだ。魔女はラプンツェルを守りきった」

那須が祐太郎の杖を奪って宣言した。


「ちえ」

まだ自分のした事が信じられなくて呆然としている祐太郎を引き寄せ、那須がキスをする。祐太郎の頬がパッと染まった。



塔である寮の階下に降りて行くと、皆が待ち受けていて盛大な拍手をした。鳴海は王子側が勝ったらしく、背の高い二年生と一緒にいた。小平はやはりというか、議長の奥平と一緒だった。


かくて脩湧館の春寮祭の打ち上げが、食堂で盛大に催された。

「何でだろう。変だよな」

祐太郎が隣に座った佐野に言う。


「何が」と答えた佐野は少しすね気味であった。拒絶したのが祐太郎であってみれば文句も言えないが。


しかし祐太郎は自分の疑問を佐野に問う。あれは不正だったと思う。自分がそういうことをした事が未だに信じられない。

「那須さんだと抵抗出来ないんだ」


祐太郎が少し気弱に言った。珍しいことである。那須がどんなひどい奴でも、祐太郎をひどい目にあわせても、祐太郎は抵抗も出来ないで言うままになってしまうのではないだろうか。


佐野はそれを聞いて、那須と祐太郎に、もうちょっと目を光らせていた方がいいかなと思い直した。何しろ影の黒幕は那須だったのだ。このまま負けたままでいい訳はない。


「お前が好きなんだから、お前がものにしろよ」と祐太郎を唆した。


祐太郎の顔が染まってニコニコと嬉しそうに頷くのを、ちょうど振り返った那須が見て、その綺麗な顔を傾げた。




  終

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ラプンツェル 綾南みか @398Konohana

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