ぬるみちゃんの縫いぐるみ
つばきとよたろう
第1話 ぬるみちゃんの縫いぐるみ
坂崎ぬるみちゃんは名前も変わっていたが、性格も変わっていた。制服はヨレヨレでいつも汚れていた。髪もボサボサで長かった。話し掛けても返事もしないし、号令の時も一人椅子に座っていた。授業中はノートを取っていなかった。先生の話も聞いていなかった。お弁当も持ってこなかったし、昼食は摂っていなかった。最もおかしいのは学校に縫いぐるみを持ってきていたことだ。それは古い縫いぐるみで、何の縫いぐるみかよく分からなかった。ボタンの目は片方が取れていた。ベタベタ触るから、色は変色していて、元の色が分からなかった。いつも手に持って片時も離さなかった。大切な物なのだろう。そんなぬるみちゃんを、男の子たちが許すはずがない。ぬるみちゃんの縫いぐるみを奪ってやろうと、常に目を光らせていた。でもいくら奪おうとしても、その試みは成功することはなかった。警戒心の強いぬるみちゃんは、男の子が縫いぐるみを奪う隙を与えなかった。どんなに力持ちの男の子がぬるみちゃんの縫いぐるみを掴もうとしても、凄い力で引っ張って力負けすることはなかった。手荒な真似をするから、縫いぐるみは所々がほつれていた。
その日、ぬるみちゃんは学校の帰り道で、男の子たちに囲まれていた。今日こそはぬるみちゃんの縫いぐるみを取ってやろうと躍起になっていたのだ。男の子が強引にぬるみちゃんの縫いぐるみを引っ張った。ぬるみちゃんも男の子と同じくらいの力で、縫いぐるみを引き寄せた。そこを狙い澄ませたように、車が迫ってきた。危ないと思って男の子は手を放した。手を放されたぬるみちゃんと車は衝突した。地面に叩き付けられたぬるみちゃんは、酷い怪我をしたと思われた。ぬるみちゃんは奇跡的に怪我一つしていなかった。その代わりに縫いぐるみは、ボロボロに引き裂かれてしまった。ぬるみちゃんは今もぼろ切れのような縫いぐるみを抱えている。
ぬるみちゃんの縫いぐるみ つばきとよたろう @tubaki10
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます