推しと一緒

ずっと一緒だよ

「かわいい、かわいい私のすーちゃん」

　汚いダンボールの中に入っていた人形を抱き上げる。それは、私の推しであるアイドルグループのスズ、通称すーくんのぬいぐるみだ。

　最近アイドル界隈では二頭身のぬいぐるみが大流行しており、遂に公式から限定発売したため、私も購入した。

　だって、私は彼がデビュー前から応援しており、握手会もサイン会も沢山参加している。

　刺繍で再現されたすーちゃんのニヤッと笑ってる顔や、狐のようなお目々が可愛くデフォルメされていて、トレードマークの赤髪も鮮やかで素敵。細身の彼にしては、ぬいぐるみらしく全体的にふくふくとしている。

「すーちゃん、これからはどこでもいっしょだよ」

　彼が着ていたスーツに似た服、ライブ衣装、メンバーカラーの赤いジャージ。アイドルぬいぐるみ用の着せ替えグッズは意外とあるようで、新大久保や池袋に足を運んではせっせと揃えた。

　もちろん、すーちゃんも一緒に買い物している。

　なんなら、すーちゃんと一緒じゃない時なんてない。

　それに、すーちゃんは今日もすーちゃんと同じ、グレーのスウェットを着て、黒いマスクを着けている。

　なんなら、すーちゃんとお揃いの景色にしたくて、背伸びして、お揃いのマンションも借りた。すーちゃんのパンツは虎柄だから、私も布を買って手縫いしてすーちゃんに着せた。

　そう、すーちゃんと一緒、すーちゃんはずっとすーちゃんと一緒。

　私も、ずっとすーちゃんと一緒なの。

　だから、脱退なんて嘘だよね。

「なんで、金髪にしたの？　脱退したから？」

「うっ、ぐぁっ、あっ！」

「すーちゃんは赤髪だよ？」

　色が抜けて汚ない金髪を私は掴んで、彼の顔を掴み上げた。

「ひっ！あ、あんた、だれ」

「すーちゃんは、一緒じゃないとだめなんだよ」

　ガッ

「すーちゃん、良かったね、お揃いだね」

　すーちゃんと、お揃いの赤髪と服を着た大きなぬいぐるみを並べる。

「ずっと一緒だよ」