THEノンフィクション、あじの増える家
千八軒
妻は買い物のたびにあじを買う
私の妻が最初にそれを見つけたのは、郊外にある大型の商業施設の中だった。
税込み748円。手の平サイズでかわいいあじ。
かわいいね。おいしそうだね。しっぽがキュート。
そんなような事を言っていた。
可愛いものにはめっぽう縁が無い私だが、あじの佇まいに感じるものもあったし、何より、妻が喜んでくれているから良いだろうと思っていた。
その頃の私と妻は、子供たちを預けたあとに気晴らしに商業施設にいっていた。大体1週間に2回ほどは行っていただろうか。
特に目的は無い。
病みがちな妻のメンタルケアも兼ねていた。
あじを見に行こう。
妻はそう言うようになった。
またか……と思うところもあったが、まぁ妻の気が晴れるならばだ。行先いつものあじ売り場だ。
税込み748円のキュートなあじ。
ここのあじは、魚臭さが無いのが良い。
あじ、買ってもいい?
妻は聞く。私は頷く。あじを買う。
あじを持ち帰った私たちは、妻の部屋にあじを放った。
あじは、部屋の片隅で、のんびりとした空気をかもしだしていた。
2匹目のあじが来た時、仲間が出来てよかったね。と笑っていた。あじも笑っていたように思う。
次の週。私たちは、またあじ売り場にいた。
あじ買っていい? いいよ。
三匹ならんだあじは、柔らかく笑っていた。
次の週もあじ売り場にいた。
あじ買っていい? いいよ。
4匹になったあじは、かさばるからという理由でかごを貰ったようだ。
その後もあじは増殖に増殖を重ねた。
あじはあじだけでは成り立たない。えびもなくてはならぬ。
娘はねこが気に入った。
あじはねこが苦手ではないのか? 食べられないのか?
とも思うが大丈夫らしい。息子はとかげが好きだ。
いつのまにやら、妻の部屋のラックはあじたちに占領されていた。
それがこれである。
THEノンフィクション、あじの増える家 千八軒 @senno9
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