かわいいからしょうがない

浅葱

返ってこないんです【完結】

 サメのでっかいぬいぐるみがある。

 抱き枕にしようと思って買ったものだ。

 しかし私の手元にはない。

 どこにあるのかといえば、娘の布団の上にある。

「ママのだから返して」

 と言っても返ってこない。

 息子には、「返してほしいなら取ればいいじゃないか」と言われる。

 でもいいのだ。

 基本的に口で言っているだけである。

 だって、サメのでっかいぬいぐるみをだっこして眠る娘はとんでもなくかわいいのだ。

 その姿を見てにまにましてしまう。

 なんで子どもがぬいぐるみをだっこしている姿というのはこんなにかわいいのだろうか。

 娘の布団にはサメだけでなく、シャチのぬいぐるみと先日買ってあげたもちもちクラゲのぬいぐるみもある。

 それを全部抱えてぎゅーっとしている姿がたまらないのだ。

 腹が立つこともままあるのだが、癒しであることに変わりはない。

 それらと一緒に寝る前は、私のボアフリースの上着を着て娘は寝ていた。

「これ気持ちいい」

 ともふもふしながら長いこと返ってこなかったのだが、さすがに上着なので着る毛布と交換してもらった。

 なにか騙されているような気がしないでもないが、でっかい着る毛布にくるまって寝る娘はかわいいのだから正義である。(もう何を言っているのかわからない)

 特に飾ったりするわけではないが、息子にもぬいぐるみは買っている。

 買う時はぎょっとする値札がついているぬいぐるみだが、どうしても買ってしまうのはそれをだっこする子どもたちがかわいいからに他ならない。

 ハタキをかけつつ、掃除機をかけつつ、ぬいぐるみのある環境を維持する。

 そういえばかつてジ〇リ美術館へ行った時は、まっくろくろすけのぬいぐるみを買わされたっけ。とってもいい値段だった気がするけど、それはきっと幸せへの価格なのだと割り切った。まっくろくろすけは娘用で、ねこバスは息子に買った気がする。えらい出費である。


 そして今日もサメのぬいぐるみは返ってこない。

 私が抱き枕にする予定だったのだがなぁと首を傾げつつ、掃除機をかけるのだった。


おしまい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

かわいいからしょうがない 浅葱 @asagi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ