イルカのルカちゃん

くにすらのに

盗聴器付のぬいぐるみ

 アイドルへのプレゼントは事務所がチェックして本人の手に渡る。建前上は本人に届いていることになっていても処分されている場合だってあるだろう。

 一つの賭けだった。盗聴器を仕掛けたぬいぐるみをプレゼントボックスに入れた。


 ぬいぐるみごと処分されて終わればまだいいほうで、贈り主を特定して警察沙汰になってもおかしくない。


 だけど俺は賭けに勝ってしまった。無事に彼女の元に届いている。スピーカーから聞こえる声は間違いなく彼女のものだ。

 ライブのMCでぬいぐるみに話しかけていると言っていたのは本当だった。


 彼女が好きだと言っていたイルカのぬいぐるみはルカちゃんと名付けられて良き相談相手になっている。


「小さい箱から飛び出したい」


 そうだよ。キミはもっと輝いていい。ライブ会場が大きくなると寂しくなって推すのをやめるにわかオタクがいるが、俺は違う。

 アイドルとして活躍している以上は上を目指すべきだ。


「早く会いたいな」


 SNSでオタクに向けた上っ面の会いたいアピールじゃない。彼女は本心でファンに会いたいと思っている。俺も会いたいよ。


“トクン、トクン、トクン”


 これは心臓の音? よっぽどルカちゃんを気に入ってくれたようだ。盗聴器が心音を拾うくらいギュッと抱きしめてくれている。ルカちゃんと通してハグしているような感覚に陥った。


「やっと会えたね」


 スピーカーとは真逆の方向。玄関の向こうから声が聞こえた。隣の部屋か? 

 明らかにこの部屋に向けられていた。

 


 キーチェーンを外してドアを開けると誰も居ない。俺の勘違いか?

 ふと視線を落とした先に、イルカのぬいぐるみが落ちていた。


 スピーカーから漏れる心音がどんどん大きくなっていく。


「これからはずっと一緒だよ」


 アイドルオタクをやめることを他界と表現する。

 

 柔らかな感触、愛くるしい姿、心音。

 

 ルカちゃんルカちゃんルカちゃんルカちゃんルカちゃん


 俺は他界した。

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