ピンク色の小さなうさぎ

ひなみ

本文

 放課後の教室に一人佇んで、窓の外を見ていた。


 雲一つない青空のもと、グラウンドには部活動をしている生徒達。中には楽しげに笑い合う姿もある。私はふうと大きく溜息を吐いて再び空を見上げる。


「やあコンニチワ。何かナヤミゴトかい?」


 突然何かが聞こえてきた。それはまるで某テーマパークのキャラクターが出すような奇妙な高さの声だ。教卓の上では、何かが存在を示すように縦横無尽に動き回っている。


「あれ、君はいつからいたの?」

「ボクはいつも、君の心の中にいるのサ!」

「私に何か用でもあるの?」

「アルようなナイような……」


 ちょこちょこと動き回っていた、ピンク色の小さなうさぎが急に止まった。


「じゃあ、ちょっとお話聞いてくれる?」

「ウン!」

「笑わない?」

「笑うモノカ!」


 うさぎはぴょんぴょん上下に跳ねている。


「ちょっとある人と喧嘩しちゃってね。どう仲直りすればいいのかわからないんだ」

「それはタイヘンダ!」

「君はどうしたらいいと思う?」

「キット、相手も後悔してるハズだよ。謝るタイミングを見計らってルンじゃないカナ?」


 またうさぎの動きが止まる。


「そういうものかな……?」

「絶対ソウ。そういうものナノ! ダカラ……」

「だから?」

「その子が謝りに来るマデ、ここで待つのはどうカナ?」

「それはだめ。私から謝りたいもん」

「え……」


 それから静かになると外の音がよく聞こえる。

 私はうさぎのところまでそっと近づいた。


春美はるみ。下から足出てるよ」

「え、嘘っ!?」


 そう叫んだ声の主が教卓から顔を出したところで目が合う。

 彼女は照れくさそうにしていた。


「朝はごめんね。何であんなに意地になっちゃったんだろ」

秋那あきな、私こそ本当ごめん。なんだか今日ずっともやもやしててさ」

「じゃあ、仲直りって事で一緒に帰りますか」


 昔あげたプレゼント、まだ大事にしててくれたんだ。

 彼女は私に見せるようにうさぎを掲げて笑った。

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ピンク色の小さなうさぎ ひなみ @hinami_yut

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