キトゥンちゃん、あのね…

わたくし

あのね、聞いて……

 会社の同僚で恋人のアキラから「キトゥンちゃん」のぬいぐるみを貰った。


「キトゥンちゃん」は子猫をモデルとしたキャラクターで、わたしの子供の頃からのお気に入りだった。

 プロフィールでは「身長 リンゴ5コ分」・「体重 リンゴ3コ分」と書いてあったが、彼から貰った「キトゥンちゃん」は「身長 スイカ3コ分」・「体重 スイカ1コ分」の大きさであった。


 彼は

「僕だと思って、色々話しかけてみなよ」

「きっと良い事が起こるから」

 と言っていた。

 それ以来、「キトゥンちゃん」はわたしの相談相手になった。


 帰宅して食事・入浴後の就寝前に、わたしは「キトゥンちゃん」に話しかける。

 職場に対しての愚痴・友達への不満・今食べたいお菓子や食べ物・恋人なのに今一つ関係が進まないアキラへの想い……


「他人が見たら、わたしは何と思われるかしら」

 そう考えたわたしは恥ずかしくなり、電気を消して「キトゥンちゃん」と一緒に毛布に包まって就寝した……


「キトゥンちゃん」が来てからわたしには、良い事が続くようになった。

 職場の上司の対応が、前より優しくなった。

 用事があって残業をしたく無い日には、先に

「今日は残業はいいから、早く帰りなさい」

 と言ってくれた。

 アキラは

「これ美味しいから食べてみな」

 と食べたかったお菓子をくれた。

 デートの時に行きたかったレストランへ連れていってくれた。


「何でこんなに良い事が、続くのだろう……」

 わたしは考えていた。

 そしてある恐ろしい事実に気がついた。

「もしかして……」

 わたしはこの事実を確認して恐怖した。

 彼との関係を考え直さなければいけないと思った。

 その時あるアイデアが浮かび、わたしは「キトゥンちゃん」に話しかけた。

「キトゥンちゃん、わたし今度の誕生日に誕生石のエメラルドの指輪が欲しいの」

 その日から、わたしは「キトゥンちゃん」にはある言葉だけしか話さなくなった。

 何故か、わたしの良い事は少なくなった。

 わたしはアキラとのデートたびに

「婚約指輪には誕生石の指輪が欲しいな」

 といつも言っていた。


 4月某日、わたしの誕生日にアキラはわたしを高級レストランへ招待してくれた。

 食事が終わると、アキラは真剣な表情になり

「そろそろ婚約して結婚を考えた関係にならないか?」

「これは僕からの誠意の一つです」

 彼が渡した物は指輪の箱だった。

 中にはエメラルドの指輪が入っていた……


「わたし4月生まれで、誕生石はダイヤモンドだけど……」

「どうして、エメラルドと間違えたの?」

 この言葉を聞いたアキラは、真っ青な顔になり震えた唇から蚊の鳴くような声で言った。

「ごめん! 僕は君に対して卑怯な事をしていました……」

「君のために良かれと思って……」

「決っして悪い事には使っていません!」

「こんな僕では、婚約の話しは無しですね……」


 わたしはアキラに向かって言った。

「わたしの返事は『キトゥンちゃん』に言っているから、もう知っているよね……」



 とっぴんぱらりのぷう

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キトゥンちゃん、あのね… わたくし @watakushi-bun

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