ハリネズミのハリー

平 遊

大役を果たした小さなぬいぐるみ

 私の名前は、あゆみ。

 今私のすぐ傍にチョコンと鎮座しているのは、ハリネズミのぬいぐるみ、ハリー。

 お店で見かけ、一目ぼれして購入したものだ。

 ハリーを連れ帰ったその日に、母は目を輝かせて言った。


「可愛い~!」


 隙あらばハリーを狙う母。

 だけど私は渡さなかった。


 そんな母が、先日ガンのステージⅢを告知され、治療のために一か月半ほど入院した。


 長い入院は、母にとって初めての事。

 しかもガンの告知を受けている。

 心細くない訳が無いのに、母は


「頑張って治すからね!」


 と、告知から入院までの間、ずっと明るく振舞っていた。

 告知を受けた日の夜に。

 私は不安とショックでひとり、コッソリ泣いた。

 けれども、母が前向きに治療を頑張ると言っているのだ。

 せめて、母の心が折れないように応援しなければと、気持ちを切り替えた。


 入院の日。

 私はコッソリ、ハリーを母の荷物の中に忍ばせた。


 ”ハリーがいたよ!あゆみ、ありがとう!”


 そうメッセージを送ってくれた母は入院中ずっと、枕元にハリーを置いていたらしい。

 入れ替わり立ち代わりやってくる看護師達にも、ハリーは大人気だったとか。


「こんな可愛いハリネズミのぬいぐるみは見たこと無い!」

「うちの娘が貸してくれたのよ」

「えっ、レンタル形式なのっ?!ウケる~!」


 治療の副作用に襲われて不安な母を励ましたり慰めたり。

 患者対応で疲れた看護師を癒したりと。

 ハリーは病院で大活躍だったとの事。

 母が嬉しそうにメッセージを送ってくるので、


「退院祝いに、ハリーあげる」


 私は母に言ったのだが、


「ハリーはあゆみのハリーだよ」


 母はそう断った。

 そして今、ハリーは私の元に戻って来た。

 もちろん、治療を終え無事戻って来た母が、病院から連れ帰ったのだ。


 ハリー。

 お疲れ様。

 お母さんのこと励まし続けてくれて、ありがとう。


 私には、ハリーが「僕、頑張ったよ!」とばかりに胸を反らせているように見えた。

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ハリネズミのハリー 平 遊 @taira_yuu

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