第25話

 小太りは俺が泣き出したのを見て馬乗りを止めてくれた。そして気が付くとおばあちゃんはクマのぬいぐるみを抱きかかえていた。おばあちゃんはクマのぬいぐるみをなぜか俺に手渡した。そして優しくうなづいた。俺は堪え切れず叫んだ、クマのぬいぐるみを抱きしめながら叫んだ。

「ごめんなさい、ごめんなさいおばあちゃん。」

 病院から助け出したつもりが気づけば自分がおばあちゃんを虐待していた。手袋や帯で体の自由を奪われるところから連れ出したつもりが、恐怖による支配という檻に閉じ込めようとしていたのは他でもない俺自身だったんだ。その事実に気づかず、いや気づかないふりをして今までずっとひどいことを繰り返していた。俺は、俺は、俺というやつは。俺は人目も気にせず号泣しながら詫び続けた。止まらなかった。


「もーいーよ。」


 そういうとおばあちゃんはクマのぬいぐるみではなく、クマのぬいぐるみを抱いた俺を抱きしめてくれた。あの日のように優しく温かく。俺は声を上げて泣きじゃくった。俺の母親、近所のおっさん、おじおばさんも泣いていたようだ。小太りは・・・・・・、わからなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る