第23話

 俺と俺の母親の醜い罵り合いはしばらく続き、お互い周りのことなど目に入らなくなっていた。気が付けばおばあちゃんもあの小太りもいなくなり、二人で怒鳴りあってた。そしてついに俺が俺の母親に手を上げようとしたとき、玄関から声がした。なんだこのタイミングに。イライラしながら外に出るといつもの近所のおっさんとあのでっかいおじおばさん、小太り、そしておばあちゃんがいた。俺の怒りは頂点に達した。ふざけるな、俺はいつだって一人で頑張ってきたんだ。誰の力も借りずに。お前たちに俺とおばあちゃんの何がわかる。俺は玄関先ということも忘れて怒鳴り散らした。そしてどいつから殴りつけようかと拳を振り上げた瞬間、小太りの姿が見えなくなった。俺は体ごと玄関に押し込まれ、気づけば小太りが馬乗りになって俺の上に乗っていた。どうやら俺はタックルされて、いわゆるマウントポジションを取られたようだ。この小太り、武道の心得があるようだ。怒りが頂点に達したころおばあちゃんが俺と小太りの横を通り過ぎた。俺はおばあちゃんを追いかけようとしたが、馬乗りになった小太りがそれを許さなかった。そして俺に説き始めた。

「いままで、高校生の身でよく頑張ったな。」

 あまりにも意外な言葉に俺は抵抗を忘れた。こいつこの状況で、人に馬乗りになっておいて何言ってやがる。

「でも、君は一人じゃなかったんだよ。ずっと。」

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