第6話

 おばあちゃんは早すぎる退院を強行した後、もう一つ大胆な計画を強行した。なんと娘、即ち俺の母親を呼び寄せたのだ。おばあちゃんが帰ってきておじおばさんは来なくなったものの、年に数回しか会うことがなかった母親と暮らすのかと思うと気が重くなった。おばあちゃんは自分が入院したことで、俺のことが心配になったらしい。おばあちゃんがいなくなったら俺が一人になってしまうと。俺の世話をする人間として、俺の母親が選ばれたのだ。しかし俺の絶望とおばあちゃんの期待はどちらもすぐ裏切られた。一緒に住むようになっても俺の母親は何にもしない人だった。俺が登校する頃はまだ寝ていて、俺が帰宅した時には飲みに行って不在だった。俺の世話はおろか、俺と顔を合わせることがほとんど無かった。俺自身顔を合わせたくないので、休日はなるべく家を出た。だがその分、俺と母親は顔を合わせれば必ずけんかになった。けんかになるのは決まって夕方、中学生の俺も生意気であっただろうが、俺の母親は成人している人間とは思えないほど、その論理は破綻していた。そして口げんかに窮すると、すぐに俺に手を上げた。俺はいつも堪えていたが、堪え切れなくなることはなかった。何故かけんかが始まり、俺の母親が俺に暴力を振るい始めると必ず近所のおっさんが現れた。

「おーい、そろそろ飲みに行こうよ~。」

 玄関でこの声がするとけんかは終わった。俺の母親は俺を睨みつけながらいそいそと出かけて行く。これが俺と俺の母親との日常となっていた。俺は俺の母親もこの近所のおっさんも心底嫌いである自分に気づき、いつか自分の力が強くなったらこいつらを叩きのめしてやろうと密かに考えていた。

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