第3話

 俺は幼少の頃からひねくれていた。人様に頭を下げることができない、間違いを認めない、謝ることができない。字が読めるようになってから幼稚園の連絡帳を見返したとき、俺を担当していた先生たちからの罵詈雑言で埋まっているのを見て改めて知った。それでもおばあちゃんは俺の代わりに頭を下げてくれていた。俺の間違いを自分のことのように恥じ、責任を痛感してくれていた。いつのころだったか、おばあちゃんはクマのぬいぐるみを買ってきてくれた。俺が望んだものではない、だがおばあちゃんは笑顔で言った。

「くまちゃんといっしょならごめんなさいできるでしょ。」

 子供ながらに気恥ずかしかったが、なによりも自分を更生させてくれようとするその心遣いが嬉しかった。俺は結局他人に頭を下げられないままだったが、おばあちゃんにだけはクマのぬいぐるみを抱えながら謝ることができた。俺が友達の家で何度やっても勝つことができないオセロに苛立ち、盤面を放り投げて壊してしまった時も。

「おばあちゃんごめんなさい」

「もーいーよ。」

 どんな時でもおばあちゃんはクマのぬいぐるみ越しの謝罪を受け入れ、必ずこう言いながら俺を抱きしめ微笑んでくれた。

「じゃあおばあちゃんと謝りに行こうか。」

 そして結局友達に謝ることのできない俺の不始末を含めて、友達とその家族に詫びてくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る