史上最強のぬいぐるみは伝説の裁ちばさみの夢を見るか?

@nekobatake

史上最強のぬいぐるみについてぼんやり考える

 史上最強のぬいぐるみとはどんなものか、ベッドに寝転がったまま、私はぼんやりと考えてみた。

 まず、最強というからには戦えなければなるまい。

 意思を持って何らかの動力で駆動するぬいぐるみ。

 創作ではよく見かける設定だ。

 まあ、この辺りは後から補完すればいいだろう。

 細部へのこだわりも大切だが、先に大まかな枠組みを作ることのほうが大切だ。

 人生とやらも、そういうものなのかもしれない。


 ……思考が別の方向に行きかけた気がした。

 まあ、ぬいぐるみが戦えるとして。

 その戦いは結構、グロくなるんじゃあないだろうか。

 手足や首が簡単に吹っ飛ぶだろうし、腹が裂けて中身が飛び出すだろう。

 だって、ぬいぐるみだから!

 修繕すれば元通りだから、無茶な戦い方をするのだ。

 でも、そんな戦いになるにはどんな武器が必要だ?

 ……裁ちばさみ?

 ぬいぐるみなんだし、そこは裁縫とかに紐づけておきたい。

 伝説の剣やら重火器やらビームなどが出てきては、ぬいぐるみと離れすぎている。


 ……ダメだな、どうにも思考が変な方向に転がっていく。

 しかし、そのおかげか、私は重大な過ちに気づいた。

 史上最強のぬいぐるみ。

 そう、

 ということは膨大な歴史を前にしても勝てなければならない。

 そうなるとファンタジーな兵器も解禁か。

 なら伝説の剣というのは悪くない発想だったかもしれない。

 ……なら、間を取って伝説の裁ちばさみ。

 うん。これはいい。これでいこう。

 史上最強のぬいぐるみは、きっと伝説の裁ちばさみで戦うのだ。

 

 ……寝返りをうつと、勉強机の上の小さなクマのぬいぐるみが見えた。

 ボロくて汚れてて、安物のぬいぐるみ。

 ……幼い頃からずっと一緒のぬいぐるみ。

 

 はあ、と私は熱苦しい息を吐き出した。

 熱で寝込んでいると、どうも弱ってしまう。


「私にとっての史上最強は、君だけだよ」


 そう言って私は目を閉じた。

 きっとどんな悪夢からも、君が守ってくれるだろう。

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