思い返せば恥ずかしい

「筈華って名前、女みたいだろ?」

「思ってた、それ」

「なんかさ、女がよかったらしいんだよ。それで俺が生まれてきたもんだから、その腹いせで」


 目の前で川が流れていくのを、眺める。川の方を向いているだけで、見ているわけではないかもしれない。何を見ているかと問われたら、何も見ていないと答える。


「筈華はどう思ってるの?」

「これ以上なくいい名前だと思ってる。だから、おじいちゃんは俺にそのことを言ったんだと思う」


「んー」わざわざそんなことを言うだろうか。

「るかは、自分の名前気に入ってるか?」

「その質問はちょっと違うかな。僕の名前はるかだけど、名前がるかじゃなければ僕じゃないから」


「そっか。ここさ、星がすごい綺麗なんだよね」背中を倒して、寝転がった。

 僕も首を折って真上を向く。「本当だ」

「あれは、オリオン座だな」指をさして言った。

「オリオン座は夏には見えないよ」

「そうなのか。じゃあ、あれはなんだ?」

「さあ、さそり座とかじゃない?」

「るかにはあれがさそりに見えるのか」

「いや、見えないけど」


「恋バナしようよ」声が少し震えていて、筈華が興奮しているのがわかる。

「中学生じゃん」

「大人になったって恋バナくらいするだろ。もししないんなら、俺だけはやってやる」

「僕のお母さんには彼氏がいるんだけど」

「恋バナとは思えない重量だな」

「筈華のお母さんには彼氏いないの?」

「やけくそになってるだろ。いないよ、そもそも母さんが」


「あそ。お父さんは?」

「俺が産まれてすぐに俺をおじいちゃんに預けて島から出ていった。らしい。俺は覚えてない」

「筈華っておじいちゃん子だったんだ」

「まあな」

「でね。できればそのまま結婚してほしいんだ」

「随分飛んだな」

「僕の親離婚してるから、問題ないよ」


「あーそうなのか」筈華は、足を川の中に入れてバシャバシャと動かしていた。水が飛ぶ、筈華は一切濡れないが、僕は濡れる。暑い夜に飛んでくる水滴は気持ちがよかった。


「までも、そう思うのは今その場所から離れているからであって、きっと家に帰って数日、あの無機質な空間に入ったら僕が言うことは変わると思う」

「なんて言うんだ」足を動かすのをやめて、僕の顔を見た。

「結婚してほしいと思うのは、きっと変わらない。でもその後は、一度も会いたくない」

「なるほど」


「些細なことで好きになる、些細なことで嫌いになる、離れたら好きになって、近づいたら嫌いになる。最後は別れて、好きなまま」

「だから嫌いなのか」

「いや、好きだよ」

「永遠に、続けばいいのにな」

「それ、言いたかったの?」

「そっくりそのまま、その言葉を返すよ」

「友達の癖がうつったんだ」



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