水族館とペンギンとぬいぐるみ

日諸 畔(ひもろ ほとり)

ペンギンはいいぞ

 俺は水族館が大好きだ。

 特に俺の心と視線を離さないのは、ペンギンだ。今、俺の目の前には大きなアクリル板を挟んで沢山のペンギンがうろうろしている。


 ペンギンは良い。

 陸上を歩く時は、ヨタヨタとどうも頼りない。滑って転んでしまう時だってある。可愛らしくて仕方がない。

 そして、水に入ればその印象は一変する。他の鳥類が空を飛ぶように、素早く泳ぐ。その姿はカッコイイとしか言いようがない。

 

 俺は少年の頃からこの差が大好きだった。いわゆるギャップ萌えというやつだ。


「可愛いねー」

「うん」


 隣では、彼女が俺と同じアクリル板の向こうを見つめて微笑む。可愛いのはお前の方だ。


「ふふっ、あの子、転んでる」

「滑っちゃったね」


 デートに来た水族館は、俺が子供の時に建てられた場所だ。当時は大きなペンギン展示スペースに狂喜乱舞したものだ。

 ただ、残念なことに、それを共有する相手には恵まれなかった。しかし、今日はひと味違う。


「泳いでると早いねー。凄いねー」

「この差がいい」

「とっても、わかる」


 彼女とペンギンを見始めてから、既に二十分以上は経過している。ちらりと盗み見た横顔は、にこやかなままだ。


「嬉しいなぁ」

「ん? なにが?」

「一緒に見てくれて」

「んふふー、そっか」


 彼女は上機嫌だった。その証拠に、いつもの笑い方をしている。俺はポニーテールの黒髪を撫でた。


 どれくらい時間が過ぎただろうか。閉園を告げる放送が聞こえてきた。


「あら、もう終わりなんだ」

「だね、朝ゆっくりしすぎた」

「ざんねーん」

「帰ろっか」


 俺は後ろ髪を引かれる思いで、彼女の手を引いた。無理をすればまだいられたのだが、俺にはやりたいことがあったのだ。


「こっち来て」

「ん?」


 手を繋いだまま、出口近くにある売店へと向かう。


「あった」

「おおー」


 俺はお目当ての物を見せる。

 手のひらサイズの可愛いらしいペンギンのぬいぐるみ。彼女の瞳は丸く輝いた。

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水族館とペンギンとぬいぐるみ 日諸 畔(ひもろ ほとり) @horihoho

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