ぬいぐるみのこころ

金澤流都

ぼくとめいちゃんとチビ太

 こころをもつことは悲しいことだよ、とぬいぐるみは知っている。

 こころを持ったら、愛されなくなることがわかるから。いつもかわいいかわいいと愛されていた時代はいつか終わり、見向きもされなくなり、埃をかぶって廃品回収に投げ込まれるのだと、それがわかるから。

 だからこころなんて持たないほうがいい。絶対にそうだ。だけれど、こういうことを考えてしまうということは、ぼくのなかに心があると、そういうことでもあるのではないだろうか。

 忘れ去られる日がいつかくる。

 それでも、愛された日々を幸せだと思えるだろうか?


 最初は、持ち主の「めいちゃん」は、ぼくを本当の生きている犬みたいに、シャケを食べさせようとしたり、散髪から帰ってきて嬉しかったのか、ぼくの頭の毛をざん切りにしたりした。

 めいちゃんは小学生になって、友達にテレビゲームというものを教えてもらって、お父さんとお母さんにテレビゲームをねだった。もうぼくのことなんて興味もないんだろう。

 めいちゃんが中学生になったとき、めいちゃんは公園に捨てられていた子猫を拾ってきて、チビ太と名前をつけた。そして、チビ太が寂しくないように、ぼくをチビ太に差し出した。

 チビ太は乱暴だ、噛みついたりぼくの背中で爪を研いだりする。痛いからやめてよ、と言っても、チビ太は聞く耳を持たない。


 めいちゃんは高校生になって、勉強したり恋愛したりして、ぼくやチビ太にかまっている暇はなくなってしまった。

 でも今度は、チビ太がチビじゃなくなって、ぼくを口でくわえて好きなところに持っていき、勝手に枕にしたり歯磨きにしたりしている。

 これも幸せなのかな、と思っていたら、ぼくは首の繋ぎ目が破けたらしい。

 さすがに処分されるだろう。しかしゴミ袋に詰められたら、チビ太が寂しい顔でぼくを探すようになった。


 お母さんがぼくを直してくれた。ありがとうチビ太。


 心を持ってよかった。

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ぬいぐるみのこころ 金澤流都 @kanezya

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