もしも、あなたの部屋のぬいぐるみに命が宿ったら
行進12番
もしも、あなたの部屋のぬいぐるみに命が宿ったら[777文字小説]
ぬいぐるみ。そう、これはぬいぐるみだ。
私は今、自分の部屋で、ぬいぐるみを見つめている。
ゲームセンターで取ってきたものや、子供の頃から持っているものもある。
一つ一つを思い返してみれば、微かな記憶を頼りに彼らのその存在を思い出せるだろう。
――が、ただ一点、解せない事がある。
「ねぇ。ぼくのなまえ。おもいだせた?」
私は今、ぬいぐるみに話しかけられている。「これまた珍妙な事か」と思われるだろうが、混乱した私の頭で出した唯一の回答がそれだ。はたまた、正常であると思っている自分の方が、おかしくなっているのかもしれない。
「ねえ」
いや、きっとそうなのだろう。
「ねえってば」
私は今、ぬいぐるみを見つめている。私に話しかけているぬいぐるみを……。
思考が停止した頭で、機械的に私は反応した返事をする。
「はい。なんでしょう。どうぞ、もう一度おっしゃってください」
「だから、ぼくのなまえを、おもいだしたかい?」
ぬいぐるみから問いかけられている。私は返答する。
「はい。あなたの名前は『くまざわ君』です。名前の由来は、あなた自身を象徴するように、くまの形をモチーフにした子供の男の子から命名されています。20××年に人気を集めた△△という子供向け番組の登場キャラクターでもあり、当時、子供たちの間では『くまわざ君』のセリフを真似てお話しするのが大流行しました。その人気に拍車をかけ、様々な関連グッズが販売され、ゲームセンター等で『くまざわ君』のぬいぐるみが登場したりするなど、20××年代初頭のブームとなりました。『くまわざ君』の人気はその後も続き、子供たちの年齢の成長に合わせ、様々な『くまざわ君』というキャラクターが作られていきました。中学生ver,高校生verなどのデザインが新たに加わるなど――」
おや、ぬいぐるみが喋らなくなった。そうか、おかしいのはやはり私だったようだ。
もしも、あなたの部屋のぬいぐるみに命が宿ったら 行進12番 @march_no_shousetu
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