キミの「ライナスの毛布」はぬいぐるみの「わんわん」

江崎美彩

第1話

 北欧の家具屋から来た「わんわん」はキミの相棒で「ライナスの毛布」だ。朝から晩まで、寝てる間もずっとキミの腕の中だ。


「わんわん、おさんぽだって」


 レースのカーテンでかくれんぼをしていたキミは窓に真っ赤なほっぺを押しつけ、降り続いていた雨が上がったのを発見した。

 さっきからお昼寝を拒否していたキミは「わんわん」のお散歩をしたいという。


 少し外にでて遊べば疲れてお昼寝するだろうか。


 外に出たはいいけれど、雨上がりの散歩道は少しじゃ済まない。長靴にご機嫌なキミは「わんわん」と水溜まりでタップを決める。

 家にもどる頃には「わんわん」のお尻から垂れ下がる各国の言葉が書かれた長いタグは、泥だらけになっていた。タグを切り取って捨てようと言った途端……


「いやぁぁぁ!」


 「わんわん」を抱きしめ叫ぶと、キミ目から涙が噴き出した。


 あぁ。こうなったらキミの機嫌はちょっとやそっとじゃ治らない。

 もうお昼寝どころかお風呂に入ってご飯を食べる時間だ。ダメ元でお風呂に入るか尋ねた。


「……わんわんのひらひら、きれいきれい、するのよ」


 急にお風呂に向かって突き進むキミは「わんわん」とお風呂に入る気満々だった。

 今から洗って寝るまでに乾く気なんてしないけど、やっとキミが動き出したんだ。問題を先送りにして「わんわん」とお風呂に入った。


 浴室乾燥機もつけてみたけれど、結局寝る時にはまだ「わんわん」は乾かなかった。

 他のぬいぐるみもお気に召さない。今日だけで何度途方に暮れたろう。

 疲れて眠くて、でも相棒がいなくて眠れずぐずるキミの背中をポンポンと叩きながら自問自答する。


「わんわんのひらひら……」


 もしかして……


 同じ家具屋で買ったクッションを渡すとキミは大きなタグを見つけて落ち着いた。


 そうか。キミの「ライナスの毛布」は「わんわんのタグ」だったんだね。


 タグを握りいつのまにか寝息をたてているキミを眺めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

キミの「ライナスの毛布」はぬいぐるみの「わんわん」 江崎美彩 @misa-esaki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ