娘にコレは譲りたくない!!
夏穂志
思い出のぬいぐるみ
「ねぇ、ママ。そのぬいぐるみちょうだい」
娘は棚の一角に置かれている不格好で縫い合わせがしっかりしていないぬいぐるみを指さして母親に頼む。
「絶対にダメ。これだけはいくらお願いしてもあげられません」
母親に頼みごとを聞いてもらえないと分かった娘は顔を赤くして、ほっぺをプクッと膨らませた。
「ママのいじわる」
怒った、かと思えばフルフル身体を震わせながら目に涙を浮かべる娘。
「なんでくれないの……」
駄々をこねる娘を抱き上げてごめんと言って背中をさすりながら母親は話し始める。
「これはね、パパが初めてくれたママの宝物なの。世界に一つだけ。……昔の話になるんだけどね、ママが小学四年生くらいの時、家族で旅行に行ったんだ。その時にね、旅行先である男の子がこれあげるって言ってぬいぐるみをくれたの。それがこのぬいぐるみなの」
「パパ…………でも、でも欲しいよ」
「うーん……じゃあママとパパと約束して。絶対に壊しませんって、丁寧に扱うって」
思い出話をしても娘に響く話でもないか、と思い母親は娘に条件を付けて渡す事に決めた。
「約束する!!」
◇◇◇
「寝ちゃったか。ぬいぐるみが欲しくて怒って泣いて、貰ったら喜んではしゃいで。色んな感情を出して疲れちゃったのかな」
娘はソファで寝息を立ててぬいぐるみを抱いて眠りについている。
「不格好で縫い合わせが良くなかったのはあなたが作った手作りのぬいぐるみだから、なんだよね。お婆ちゃんに教えてもらいながら自分で作ったって大人になってから言っちゃって……もし再会出来なかったらわたし捨ててたかもしれないよ? なんて冗談だけどね」
母親は娘の元から移動して仏壇の前に座る。
「早くあなたの所に行きたいけどあなたとの子が成長するまではちゃんと世話をしてあげないといけないから今すぐには行けないな……。どうしてわたしにくれたのか今でもわからないけど凄く嬉しかったよ。次あなたと再会した時はその理由、教えて欲しいな」
娘にコレは譲りたくない!! 夏穂志 @kaga_natuho
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます