監視

キザなRye

第1話

 これは私が母から聞いた話である。話は私が2,3歳の頃に遡る。玩具店で私がクマのぬいぐるみを欲しいとねだっていたという。いわゆる“イヤイヤ期”真っ只中の私は店でコロコロと床を転がるまでしたという。母もいろいろ考えたが、結局買うという決断を下したらしい。ただそのぬいぐるみは私が物心ついた頃には家になかった。

 事件はぬいぐるみを買ってから起こった。最初は何事もなく、私がそのぬいぐるみで遊んでいた。私がいつも行動を共にする相棒にまでなっていた。母も父もその他の私の周りにいる人も私がぬいぐるみと一緒にいることで楽しそうにしているのを微笑ましく見ていた。

 ある日、私が両親と遊園地に遊びに行っているとつば付きの黒い帽子を目深まぶかにかぶって私たちのことを追ってくる男がいた。両親はとても怪しいその男の存在に早い段階で気付いて男を巻こうと早足で歩いたり路地に入ったりして攪乱した。そのおかげか、男は姿を消した。後に男が再び現れといったことはなく、1日を無事に終えることが出来た。

 もしかすると勘違いだったのかもしれないと最初は特に気に留めることがなかったが、遊園地に行った日以降に何度か同じように後ろを付けられているといった体験をした。何度も付けられているとなるとさすがに心配になってきたので両親は警察に相談した。

 警察はストーキングされているという事実を聞くととても不思議なことを言い出した。

「ここ最近、○○玩具店でぬいぐるみを買いませんでしたか」

○○玩具店とは私が駄々をこねてぬいぐるみを買ってもらったお店である。両親は何でそれを知っているのかと不思議そうな顔をしながら“買った”というと警察は

「すぐにそのぬいぐるみを捨ててください」

と言った。

「いくら警察とは言え、娘が気に入っているぬいぐるみをそう簡単には捨てられないです」

「実は、あの玩具店のお店でぬいぐるみを買ったご家庭から同様のストーキング行為の相談を受けてまして調べたところ、ぬいぐるみの中に盗聴器が仕掛けられていることが判明しました。その盗聴器がストーキング行為に繋がったものとみて目下調査中です」

続けてその場にいたもう一人の警察官が

「もしよろしければ我々警察がそのぬいぐるみを安全に処分します」

と言った。

 両親たちはどうにかこうにか説得して私のお気に入りのぬいぐるみを警察に渡すという形で処分した。それ以降はストーキングされることはなくなった。

 両親たちが後から聞いた話では玩具店の店長が盗聴器を仕込んでおり、身代金目的での誘拐のターゲット選定のために使っていたらしい。ストーキングは店長が雇った若い男たちが行っていたらしい。私のぬいぐるみが警察に渡ってから2日で店長とストーキング行為をしていた男が逮捕された。

 私が物心ついた頃には玩具店は跡形もなくなっていたしぬいぐるみもなくなっていたので覚えていなかったのも無理はなかったかもしれない。

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監視 キザなRye @yosukew1616

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