第2話 装備をしようよ!
そして俺らはダンジョンが現れたとされる、彩花の母校にやって来ていた。どうやら噂を聞いて集まった人もいたようだが、そのダンジョンのおどろおどろしさに足を踏み入れる素振りは見せなかった。そんな場所に……
「ここがダンジョンかぁ……興奮してきたね!」
「○ンドウィッチマンかおどれは」
ツッコみながら俺は校門に近づき、ひょいっと二人で背伸びしてダンジョンの様子を見た……どうやらダンジョンの入り口は、校舎の昇降口の扉があった場所らしい。その入口は何故か石造りの門みたいになっていて……中は薄暗くてよく見えないが、どう見ても高校ではなく、洞窟のような空間が広がっていたんだ。
「……はぁ。この目で確かめるまでは本気で信じて無かったんだけどなぁ……」
「よし、行こっか類!」
そう言って彩花は校門をよじ登り、敷地内に入る。そして門の向こう側でおいでおいでと俺に手招きするのだった。
「今更だけどこれ入っていいのかよ……? 高校の中にあるし」
「ふふ、ここはもう高校じゃないよ……ダンジョンなんだよ、類!」
「ダメだこいつ」
テンション上がって、まともな思考が出来なくなってるよ。こうなった彩花は、俺が何言っても聞かないんだよなぁ……そんなことを思いながら俺も校門を飛び越え、敷地内に入ってったんだ。その様子を見た彩花は、イタズラっぽく微笑んで。
「あーあ、これで類も共犯者だね?」
「お前なぁ……」
「ふふっ、それじゃあ誰にも見られない内に行くよ!」
「……ああ」
そして覚悟を決めた俺は頷き、彩花の後ろを追って、ダンジョンへと足を踏み入れるのだった。
──
……ダンジョンの中は本当に洞窟のようで、少しひんやりとした温度に包まれていて……壁や地面は硬い石のような、謎の素材で囲まれていた。ペタペタと壁に触れながら俺は呟く。
「ホントにどうなってんだよ、この場所は……」
「んー意外と明るいね?」
「確かに……」
彩花の言う通り謎の力が働いているのか、ダンジョンの中は多少薄暗いレベルに収まっていた。光源は入り口からしか無いというのに……いや、この場にいる以上は、常識で物事を考えるのは止めたほうが良いのかもしれないな。何せこの場所が一番、非現実的な場所なんだから……。
「じゃあ進んでいくか……」
「あ、待って待って。もしも敵が出てきたらいけないから、武器を装備しようよ!」
「武器? そんなの俺、持ってきてないぞ」
「大丈夫、私が持ってきてるよ! ちょっと待ってて……」
そして彩花はどこに仕舞っていたのか、長い棒のような物を取り出したんだ。でもよく見るとそれは棒なんかじゃなくて……。
「……じゃーん! ゴルフクラブー! こっそり家から持ち出してきたんだー!」
「ペ○ソナ4か」
はぁ、道理でクソ長いバッグ背負ってた訳だよ……で、彩花はそのまま俺に手渡してきて。
「これは類に渡しておくね!」
「……じゃあお前の武器は?」
「私はこれだよ……フライパン!」
「……」
「〇ーラか!」か「○UBGか!」のどっちでツッコむかで悩んでしまって、つい黙ってしまった……というかコイツ、本当にゲーム脳過ぎないか? もっとナイフとかの方が、明らかに攻撃力ありそうなのに……。
「……あ、その顔。何でこんな変な武器持ってきたんだって思ったね?」
「そりゃ思ったよ」
「だってー、もしも職質とかされてナイフとか見つかったら大変なことになるじゃん! 一応私、ダンジョンの近くに警察が来てて、荷物検査とかされてーとかの展開も考えてたんだよ?」
「……だから、職質されてもギリギリ切り抜けきれそうな武器を持ってきたと?」
「うん!」
……逆にゴルフクラブとフライパン見られた方が、言い訳難しくなると思うんですけどね……まぁいいや。敵が出てくるか云々は置いといて、とりあえず持つだけ持っておこう。俺は彩花からゴルフクラブを受け取って、何回か素振りするのだった。
「……よし、じゃあそろそろ配信付けようか!」
「ああ、そういや探索配信しに来たんだったな……でも、俺らはVTuberだぞ? 顔を見られる訳にはいかない」
俺の言葉を聞いた彩花は、またリュックの中をゴソゴソと漁って……。
「大丈夫だよ……じゃん! こういう時の為のライバー用スマホ! これがあったらスマホで配信しながら、私らのモデルも動かせるよ!」
なるほど、確かにそれがあったらVTuberとしての配信は出来そうだが。
「……でもせっかく来てるんだから、ダンジョンの様子も映したいだろ」
「じゃあ映そっか!」
「だからそうなると顔が映るって……」
「だったら探索中はダンジョンの様子を映して、休憩中はいつものライバー画面にしようか! 探索中は頭にスマホ付けて、一人称視点で配信すれば顔バレの心配もないでしょ?」
「確かに自分の顔バレは無いだろうけどよ……」
言いながら俺はお互いの顔を指差した。そしたら俺の言いたいことは伝わったようで。
「……んーじゃあ分かった! とりあえず今日は私が手で持って撮影するから、類は配信のことは気にしなくていいよ! 顔は映さないようにするから!」
「いや絶対映るって」
「大丈夫だって! そんなに心配ならヘルメット被ったら? 私、防具も沢山持ってきたからさ!」
そう言って彩花はリュックからヘルメットを取り出し、俺に被せてきた。何だかサイズが小さい気がするが……無いよりはマシか?
「よし、これで安全第一だね!」
「意味違くない?」
「……ま、最悪映ったとしても、その辺の若者を黒魔術で乗っ取ってるってことにすれば、問題ないよ! だって『ルイ・アスティカ』は魔道士なんだからね!」
「……だから黒魔術のことを蒸し返すのは止めろって。あれは黒歴史なんだ」
「黒魔術なだけに?」
「やかましいわ」
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