バースデープレゼント

シロヅキ カスム

【SS】バースデープレゼント

「付き合ってくれない?」


 そう、君から言われて……たぶん三センチくらい、僕の尻が椅子から浮いた。


「今日の放課後、本屋さんに」


 続いた言葉に僕は苦笑う。そりゃそうだろうと、自分の心にツッコミを入れた。


 それでも僕のか弱いハートは、バクバクと激しく脈を打つ。だって、これって……いわゆる放課後デートというやつで――。


「あのね、好きな人にプレゼントを贈りたいの」

「…………」

「ねぇ、お願い……一緒に選んでくれないかな?」


 ひどいオチだ。

 それでも、僕ってやつはまっすぐ首を縦に振る。

 断れないよ。なぜって、大好きな君からの頼み事だからさ。



 * * *



 図書カードでいいんじゃないかな。

 千円くらいの。と本屋へ着く手前で、僕はつまらない提案をする。


「それじゃあ、つまらないよ」


 案の定、となりの君もおなじ意見を口にした。


 駅と直結したショッピングセンターの五階。ゆるゆる進む上りエスカレーターに乗って、僕たち二人は本屋へ到着した。


 フロア一面、床が白く明るかった。印刷の独特な匂いもする。ほかのエリアとはちがう、パリッとした清潔感と物静かな空気がそこにあった。


 とうとう着いてしまった。

 覚悟を決めていたはずの僕の心は、軽やかに踏み出す君のローファーを見て……またチクリと痛んだ。


「形になるものを渡したいの」


 話の続きを、君が語る。本屋のフロアをぐるっといちべつする目が、キラキラと輝いていた。


「そりゃあ、もらった人からすれば、当たり外れの大きいプレゼントだと思うよ? それでも……ちゃんと形になるものを贈りたいの、私の気持ちを込めれるように」


 ちょっと図々しいかな?

 そう言って、君は振り向いた。


 頭一つ分背丈がちがうから、僕の顔を少しのぞき込むような形で。

 そのまばゆい目を、僕は見れなくて――つい顔を逸らしてしまう。


「あ、これかわいい!」


 本を探すと思いきや、君は入口にあったポストカードの棚へ真っ先に飛んでいった。

 あとからついていくと「かわいい、これもかわいいなぁ」と、いろいろ手に取っている。


「これも買いたいの。あ、でもこれは自分で選びたいから――くんは、本を探して」


 そう言われて、僕は了承した。


 文房具のコーナーから離れて、僕はひとり、書籍の棚をあちこちさまよった。いったい、贈る相手は誰なのだろうかと思案しながら。


 さすがに漫画は選ばないよな。

 おなじ学生なら好きかもしれないけれど『大切にしてほしいもの』ならば、別の本がいい。


 小説? 参考書? 雑誌? 自己啓発?

 ……趣味の本はどうだろうか?

 音楽やスポーツ、料理にハンドメイドと本屋にはなんでも揃っている。僕なら、コンピュータ関連の本がうれしいな、あとイラスト素材の――。


 いけない、いけない。


 あれこれまわっても、つい自分の好きなものばかりが思いつく。

 本は好きだ。でも他人の好きな本など、やっぱり選べない。それもよりによって……。


 ああ、君はどうして自分なんかに頼んだんだろう。


「いいの、見つかった?」


 声がして振り向くと、君が立っていた。


 手にはポストカードを一枚、持っている。ケーキの形していて、飛び出す仕掛けがあるやつだ。カードには金色のアルファベットで『Happy Birthday!』と大きく飾られている。

 

 誕生日のプレゼントなのかい?

 と僕が問うと、君はこくんとうなずいた。


「○月の×日よ」

「…………」


 なんということだ。

 よりにもよってその日は、僕の誕生日と一緒じゃないか。


「それでいいのは見つかった?」

「…………」

「――くんの好きな本」


 君はひとり、おもしろそうにクスクス笑っていた。

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