第20話 太陽のような父と月のような母
セオの家は夜の家という。スチュワートの家は昼の家と言って、あたしのうちは夕刻の家と言われる。
元老院の教育儀礼は最後の最後で難問をふっかけてくる。意地の悪い先生を本当は群青が担当するはずだったけれど、何か私的な事情とかでその役目はエリザベスが担うことになった。ヴィクトリア以前のエリザベスはあたしに母親のように教えることを心がけてほしいと言われたという。そして、あまりヒントを与えないことも条件だったのだそうだ。
「夜の家と昼の家の間になぜ誤解が生じたのかを考えてみましょう」
テストから始める科目なんて聞いたことがない。何かそのあとにあるのかとエリザベスの目をじっとみた。
「ふたつの家の間にどのような誤解が生じたかは史実として公開されているでしょう?史実に記された理由を超えてください」
夜の家と昼の家は鉛玉さえ飛び交うことはなかったけれど、汚い言葉で罵り合う日々が何年も続いた。理由はわからないし、何がきっかけかもわからないというのが正直なところだ。
オルレアンからは実父であるジョシュアたちの世代が作ったこの星のボーダーラインについて何か不満があるということは一切感じられなかったし、その前の世代となると名前もあやふやで、亜種白路という組織が発足した頃まで事件は何もなかったように記憶している。歴史の教科書を見直しても特別何かあった様子もなかった。
亜種白路という組織が作られたのはなぜだろう?
「めぐは人を守る強さはあるのに、自分を信じる強さがない」
そう心配してくれたのはセオだった。
「めぐはもっと自信を持ってその立場を相手に対してわからせるべきだ」
そう力づけてくれたのはスチュワートだった。
翠嵐さんはセオと同じようなことを言うし、スカーニーはスチュワートと同じようなことを言う。
まるで夜の家は母親のようで、昼の家は父親のようだと感じた。
自信を持つにはどうしたらいいだろう。あたしの長年の課題だった。
そういえば、勉強はできるのにできないと思い込んでいると基実くんに怒られたことがあった。
基実くんは偏差値75の秀才だった。学歴コンプレックスがありすぎるあたしが基実くんに褒められるととても嬉しかったし自信になった。
時空旅人を経験してみようと試みた。それはカンニングになるのか?とエリザベスに聞いたら、かまわないという。
一度だけの飛躍のつもりだった。けれど、複雑すぎて一週間に3回も旅立ってしまった。ビルはそんなあたしをみかねて少しだけヒントをくれた。
「ひとりで頑張りすぎないように。みんないるのだから」と。
ビルは翌週元老院の役職に専念するために、教育儀礼の教師を引退するといった。
あたしは昼の家と夜の家の誤解について確信を持った。
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