第18話 質量保存の不法則

めぐちゃんは復習に時間をかける。俺の育った国では復習は授業でするものであって、家庭学習でするものじゃない。家庭学習では予習をし、そのわからなかったところを授業で聞く。だから講師は「何か質問はありますか?」と授業中にいうのだ。


「どう思う?セオ」

セオは熟考してくれる。直接めぐちゃんに聞いてくれたりもする。

「どう思う?スチュワート」

スチュワートも熟考してくれる。そして時々、仮説を立てては連絡をくれる。

「帝都くんも家庭学習って復習派?」

「俺は勉強嫌いだからやらなかったよ。でも、授業でやったことを派生させていく作業が宿題って中学の頃教わった」

「応用も兼ねるってこと?すごい時間かかるじゃん」

「でもそうやって教わってきたから多くの日本人はそうやってると思う。俺より基実に聞きなよ、あいつは勉強のプロだから」

なるほど、教育システムの違いか。妙に納得した。

「基実くんは家庭学習ってどうしてた?」

「ねえ、ビル。それって宿題のこと?それとも家庭学習のこと?それとも復習のこと?」

基実くんと俺の間に大きな隔たりが見えて、その間に足を突っ込みかけて、俺はすっとその身を翻した。海には船とその海を知る案内役が必要だ。

「ちょっとそこをのところ詳しく聞かせてもらっていい?」

「ビルが言いたいのはどれなのかな?って。宿題?家庭学習?復習?日本は宿題は出される、次の授業までの課題。家庭学習はほとんどの生徒は塾に行って行う。これは契約を伴うから、そこでどう働くかは自分次第。復習はもっと自由裁量でやっていますって言ってもそれは出された課題や、契約した場所での時間の経過を言葉の代替として使うことがほとんどだよ」

言葉を失う俺に基実くんはさらに続けた。

「宿題はその授業の復習として教師が与えるもの。それを次の授業までにやっておくことが課題だから、復習は教師が与えるもの。自発的なものではないことがまずわかると思う。めぐがやっているのは与えられた課題ではないし、どちらかというと純粋な意味での家庭学習だと思う。でも家庭学習に復習の意味も込めてしまうからやることが整理されていないんだと思う」


船の方向が少しだけ見えた。浮標がなぜこんなにもこの島を取り囲んでいるのかも。

「復習はタスクをこなしていくこと。でも一部の人間は復習に量産型を投入する。これが復習においてその課題を派生させる行為。亜種白路が復習のために百舌鳥柄にそのやり方を全任した。黒く塗らされたこといまだに根に持ってるから百舌鳥柄は便利な道具となってくれることは誰でも簡単に想像できると思わない?」

俺は少し意地の悪い質問をした。

「カナリヤの一族はなんで大学に行かないの?」

「負けたくないから。百舌鳥柄はどのみち亜種白路よりもよく学んでいて知識のレベルでは勝負にならない。負け戦はやりたくない、プライドだけは質量保存の法則が成立してる」

「逆に質量保存の法則が成立していないのは何?」

「ステータス。ないものをあるように見せかけてセオやスチュワートのように振る舞ってたじゃん」

俺は苦笑いした。笑い声も漏れないほどに納得したからだ。

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