第17話 Delicate outside,Insensitivity at home

「ねえ、めぐ?俺と結婚しようよ。そうしたら、もう、接触障害で悩まなくてすむってわかったじゃん」

毎晩、毎晩、どこから湧き出てくるのか知らないが甘い言葉を垂れ流すスチュワートにあたしは最近対抗策を講じるようになった。

「明日、セオとお勉強するからもう寝る!」

スチュワートとあたしが結婚すれば確かに世の中はすべて丸く収まる。カナリヤ色のロングヘアーのおじさんがスチュワートのおじいさんになりすまして朱雀雪芸と恋愛関係にあったと虚言を吐いたことが発端となり、世界は60年前からさらに混沌に陥っていることはあたしもスカーニーもどこかで責任を感じている。


スチュワートは変に一途なところがある。妙に落ち着いているのに、絶妙に情熱的だ。

「勝手に決められた、しかもいとこ同然のフィアンセをよくもまあ普通以上に愛してるなんて言えるよね」

「セオはなんて言ってる?」

「え、知らない。聞いたことないもん」

「セオとはどんな話してるの?」

「音楽とか、絵とか、小説とか、芸術とかお互いの趣味の話」

スチュワートが唖然とした顔をした。

「なんで?」

先を求めると、「うちの両親みたいだ」と言って部屋を後にした。


スチュワートにもあたしと同様に生みの親と育ての親がいるけれど、スチュワートの場合は生みの親に18歳まで育てられたからそういう意味ではあたしとは真逆である。

セオはあたしと同じように、生まれてすぐに戸籍のために養子となった。でも、あたしと違って誘拐されとわけじゃないから生みの親とは自由に面会が可能だった。


基実くんはご両親が早くに養父母だったことをあけすけに打ち明けたから、スカーニーとの関係の方がより親子らしかった。セオの家に養子に入ることで、セオと基実くんはメインキーとスペアキーの関係性を構築した。


帝都の場合はあたしのために亜露村に家族という形をとって暮らすことを強いられていた孤児だったから、そもそも血筋のご両親を知らないという。

スカーニーからスチュワートの家に養子に入ることを提案された時も、すぐに印鑑を持参するほどに話が早かったのはあたし以外にこの世には存在しないという思いが強かったからだろうと思う。スチュワートと帝都もメインキーとスペアキーの関係性を構築した。


亜種白路が二枚舌を演じていたスチュワート本人がこの島に来てダイレクトにあたしに接触したことで戦況は大きく変わった。

彼らは国内ではジェラルド麻野をスチュワートのように見せかけ、対外的にはジェラルド麻野という象徴を使ってあたし本人と繋がっているように見せかけていた。

あたしは日本人の象徴をそもそも禁止しているし、日本人はThroenに所属することは許可されていない。でもこのThroenの仕組みを知る日本人はほとんどいないから、この島のなかでは話が成り立っていた。


「ところで、あの事務の子まだ来てるの?紅一点になりたくて女性の同僚追い出したってスチュワートが言ってたよ」

セオが珍しく芸術以外の話題を振ってきた。

「うん。スカーニーが面白がって離職許さないのよ。ほんと迷惑」

「だから、君は俺にいつも会いに来るの?」

「セオの方がスチュワートよりも興味の範囲が似てるから」

ちょっと心外という顔をされた。


あたしはいつもこんなふうに少しだけ鈍感だ。帝都はそんなあたしをいつも慰めた。

「まあ、いいんじゃない?そういう時期も必要だよ」

あたしはやっぱり帝都が大好きだ。



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