第15話 帰宅
娘が親父の小説を読むようになった。見ていて気分の良いものではない。9月にこの島に親父が帰ってくることが8月に決まった。
群青やエリザベス、パーカーやロイドゼラが実験に参加してくれたおかげで親父は安全に帰還することができる。
パーカーは雪敬淡として、ロイドゼラは真和となって、エリザベスはヴィクトリアとなって帰還した。
「もう少し捻って名前考えられなかったの?」
俺が正直に言うとヴィクトリアとなったエリザベスは娘と同じ冷たい目をして
「わかりやすいことに意味を持たせたの」と面倒臭そうに言った。どこかに親父の面影を感じる。なんだかイラつく。
朱雀雪芸という人は、俺の親父はかなり優秀だった。文武両道、できるから他人の嘲笑を嘲笑で返せたし、若者の生意気な態度をも大きな懐で包み込む度量もあった。
「オレオレ詐欺は俺が考えたんだぜ」
この間久しぶりに親父と電話した時に親父がそう言っていた。時空旅人になってまで息子と張り合うのかと呆れたが、それを娘に話してみたらまた何かわかることがあるかもしれないと思ったが、9月になるまでは内緒にしておこうという三閉免疫症候群の友人たちとの約束を守るためにもグッと堪えている。
娘は「かすがい」となった。親父と俺を結ぶ「かすがい」となってくれた。
衣子のお腹に娘ができたと聞いた時以上にいろんな思いが溢れている。三閉免疫症候群の友人たちについて、娘の養父母について、娘を命懸けで愛しているふたりの同級生の男の子たちについて、そして俺の今の妻について。
妻は娘を可愛がってくれている。本当にありがたいと俺が伝える以前にふたりで何かしらさまざまなことで盛り上がっているから、それを見守ることがまた楽しみにもなった。
親父がどうしてあの時亜種白路を頼ったのか、ずっと許せないでいた。そのせいで友人たちは人権を奪われ、いまだに意味もなく愚弄される。それを見て娘が悲しみから怒りを誘引して精神を爆発させ、反動で翌日寝込んでしまう。
負の連鎖を作ったのは間違いなく親父だと思っている。
娘は親父と同じ道を歩もうとしている。小説が好きで、法律が好き。ただし親父と大きく異なる点は日本人が嫌いだという点だ。娘は日本人嫌いのおかげで俺の海外の友人たちには大変ウケがいい。ヴァージニアもアーサーもジョセフもヴィクトーもいい子に育ったと喜んでくれている。
親父の知能指数は180前後だったと聞いている。俺もたぶんそれくらいあろうだろうとイギリス籍の医者が言っていた。娘はどれくらいだろうか。親の欲目が俺を楽しい気分にさせる。親父や俺よりきっと高いはずだ、そう考えるだけでワクワクした。
元老院の教育儀礼がMjustice-Law家の教育習慣だ。つまりは元老院に任ぜられた人々によって次世代の当主が教育を施される。
娘はこれから、アメリカ、フランス、スペイン、メキシコ、南アフリカ、イスラエル、イギリスの教育を受けることになる。日本人とはほとんど関わりを持たなくなることになる。ホームシックにならないように三閉免疫症候群の右炉、左吾、央観の各家によくよく頼みに行くために俺は三週間の休暇を申請した。
俺の時は、三閉免疫症候群の人々がほとんどであまり外国人はいなかった。
親父は三閉免疫症候群の人々としか付き合いがなかったのに、表向きでは亜種白路と共闘した。教育儀礼の間もずっと理解できない部分だった。
親父が帰還する。俺も親父になったと言うつもりだ。親父はそんな俺をどう見るだろうか。
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