第12話 泣き虫にはドーナッツを

恵さんがまた泣いて帰ってきた。明日はセバスチャンから受ける初めての授業だというのにこれでは埒が明かないからと基実が連絡をする。水曜日の夜のことだった。


翠蘭さんがお風呂だご飯だと甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。スカーニーはイライラしてタバコの本数が増える。監永と捜永は犯人探しのために方々に連絡を取るし、ヴァージニアはアーサーとヴィクトー、ジョセフに今すぐ来て!!とヒステリックになるし、恵さんが泣いて帰ってくるととんでもないことになる。


「今度はどうしたの?教えて?ね?」

ヴァージニアは翠蘭さん以上に過保護だ。猫可愛がりにもほどがあるほどに甘やかしては心配している。


「むかつくって言われた、、、」

「誰に?」

神経質な声の主はヴィクトーだ。もう来たの?と心の声が漏れそうになる。

「よくわかんない女子高生、、、」

今度は女子高生かよ、俺と基実は顔を見合わせる。基実は「勘弁してほしいよね」というようにため息をつく。

「あと、笑われた、、、」

「なんで?」

今度はアマンダだ。え?呼んだっけ?アマンダは明日、アメリカに一時帰国する予定じゃなかった?

「チケットなんかどうとでもなるわよ。で、なんで笑われたの?」

「あたしが金髪だから」

「かわいそうに、、、私も経験あるわ」

ロイドゼラだ。時空旅人まで来てしまった。

「胸が大きくてブロンドヘアはおバカちゃんって言われるのよね。あれなんとかならないかしらね」

翠蘭さんがなぜか手際よく10人分のそばを茹でている。スカーニーが少し落ち着いた様子で家に戻ってきた。この人はやっぱりタイミングが良い。

「あとは?何か嫌な目にあった?」

「声かけられた、男の人に」

「何て言われたんだ!!」

アーサーの神経質な叫びよりも監永の座った目が怖い。

「どこかで会ったよね?って。髪と肩も触られた」

「ありえない、、、」

いや、ありえるんだよ、そんなの普通に。基実の心の声が俺にも聞こえる。

「基実くんの悪口言われたの、、、もうあたし無理、、、」


恵さんは自分とレベルの違う女に取られるマウントをそのまま受け取る悪い癖が抜けない。俺は気にしていないと言っても俺の悪口を言われることが我慢できないと号泣する。

そして我が家には冷静に恵さんを俯瞰できる人間が俺と基実以外いない。


「恵さん、ドーナッツ食べる?」

こういう時のお薬はドーナッツ3つ。それ以上はニキビになるから与えない。

むしゃむしゃ食べたらもうご機嫌だ。

「すごいな、、さすが帝都だよ、、、今度ぜひやり方を教えてほしい。講習会を」


これは俺だけの秘密。俺の特権。






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