第9話 BASE CAMP

水曜日、帝都が嬉しそうに帰ってきた。喜怒哀楽を表沙汰にしないあの人がなんでまたこんなに嬉しそうなんだろうと目を見つめると、話したそうな顔をしていた。

珍しい、本当に珍しい。


「めぐみさん、これ、覚えてる?」

下手くそな絵が表紙のそのアルバムは保育園の卒園アルバムだった。

「おおおーーーーーーーーー!!!!!!!」

あたしと帝都の出会いは保育園の年中さん。あたしたちの基礎が詰まっているベースのような時代だ。

「めぐみさんの実家から持ってきた。一緒に見ようよ!」


基実くんも帝都も商標権の関係で公式な立場があるけれど、もともと三人は同級生だ。厳密に言えば基実くんとは中学から、帝都とは保育園からの幼なじみである。


あたしは絵を描くことが不得意で、保育園の年中さんのときに悪い絵のお手本として晒されたことがあった。自信をなくしたあたしは絵を描くことをやめた。それがよかったのかもしれないが、あたしは文章を書くことが好きになった。文章なら上手いも下手もない、言語の規格は決まっているし今は便利にもワープロがある。

あたしの思考のスピードについて来られるのは手書きではなくてワープロだ。養父はなぜか知らないけれど、早い時期からあたしにPCに触れさせた。でも、コンピュータープログラマーにはなれなかった。システムのことはてんでわからない。あたしがPCでできることといえば、ワープロを使うことくらい。これは今も変わっていない。


BIllにそんなことも話した。そのくらいあたしは彼のことを信頼している。

群青やアマンダ、エリザベスにも話してごらんと助言してもらったから授業の時に子どもの頃、人質先で嫌だったことを少しずつ話すようになった。

「そんなことまでされていたの?なぜ嫌だと言わなかったの!?」

エリザベスとアマンダが怒り狂っている。ちょっと怖いほどに。

「え、、、だって誰も同情してくれないってわかってたから。話聞いてくれないっていうか、、、」

「は?!どういうこと!!??」


その夜、アマンダとエリザベスが大問題だとヴァージニアやアーサーまで呼んで大会議を開いてしまった。

想像以上に大問題になってあたしはオロオロした。

翌日、あたしの今の母としてお披露目された翠蘭さんとスカーニーがアーサーとジョセフとヴィクトーに呼び出されて事情説明を受けた。

翠蘭さんは事情を聞くとエリザベスと同じレベルで憤慨して、その姿を見てあたしはまたオロオロした。

人生でこれほどまでにあたしが受けた被害に対して憤慨してくれる人がいる経験は初めてだったからだ。


土曜日、元老院の入れ替えが行われた。

「烏鷺棋も第二ステージに入ったことだし、タイミングとしてはよかったんじゃない

?」

基実くんは帝都よりも帝冠任務暦が長いから涼しい顔をしていた。


元老院は8月6日より、ビル(アメリカ)、シャルル(フランス)、セバスチャン(スペイン)、ジョン(メキシコ)、アマンダ(南アフリカ)、アレックス(イスラエル)、エリザベス(イギリス)で運用がはじまる。

「烏鷺棋処分は自分たちも手伝わせてほしい」

各国の財政が2月から申し出てくれていたことがようやく実現する。

7つの大陸から艦隊が就航する、戦争のためではなく烏鷺棋処分のために。





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