第8話 with Unveil

めぐみさんの主治医がBillになってからというもの、めぐみさんの回復は目覚ましかった。スカーニーはあまりの嬉しさから苦労を共にしてくれた三閉免疫の友人たちを集めて大宴会を開いたほどだった。

俺はBillにその酒宴の席ではじめて会った。各国のシェフたちの情報交換交流会も兼ねていたから、ヴァージニアやヴィクトー、アーサーやジョセフは仲介者として忙しく走り回っていた。

ヴァージニアはスペイン語がネイティブ並みに話せたから、スペイン言語圏のシェフたちの対応に忙しそうだった。今般のレストラン経営はどうもスペイン語圏がメインになるかもしれない。それは、アーサーやジョセフ、ヴィクトーもよく理解していた。

ヴァージニアの秘書にはJohnとAmandaがついた。彼らもスペイン語圏には昔馴染みの知人や関係者が多くいたからだ。

お祝いの席だとか酒宴だといっても、どうしてもMjustice-Law家の宴会はビジネスの色が出てしまう。仕方のないことかもしれない。

「君が帝都くんかな?」

Billは背の高い人だった。どこかロシア系の顔立ちのような気がする。コーカサス系という雰囲気だ。

「はい。はじめまして、いつもめぐみさんがお世話になっています」

「君は彼女に“さん”をつけるの?」

「はい。小学校の頃からの癖で、、、」

「なるほどね。ちょうどよかった、君にアドバイスをもらいたいんだ。基実くんも読んでもらえるかな」


Billは俺と基実にめぐみさんの接触障害の今後の治療方針についてアドバイスが欲しいのだという。

「彼女はどんなふうに接触障害を克服できると思う?率直な意見が聞きたい」

「学ぶことはとても好きです。勉強はレクリエーションだ、というのが口癖ですから」

「なるほど。子どもの頃はどうやって勉強を?たとえば家庭教師がいたとか、公立学校で集団で学習をしていたとか」

「ひとりです」

「え?」

Billが眉間に皺を寄せる。俺と基実は顔を見合わせて笑った。

「めぐはテキストを自分なりに読むんです。読解能力が抜きん出て高いから、」

「そうそう。いつも先生やりこめてたよな」

「では講師はいらなかったということ?」

「いらなかったと思います。あ、めぐ!!ちょっとこっち来て」

ボサボサ頭の金髪は充実している証拠。顔が晴れやかだから今日も勉強が捗ったんだと俺たちは嬉しくなった。

「こんばんは、Bill。ようこそ」

「こちらこそお招きありがとう。早速なんだけど、君は講師を必要とせず勉強しているって本当?」

「うん。本当。テキストにはその学問を研究する上で理解すべきことが丁寧に書いてある。あたしはそれを読めばわかる。日本語に関しては講師の解説はあまり必要ない」

「わかった。では君は実際学校を必要としていないということ?」

「正しくはそうかもしれない。でも街の中で一番学校は静からだから集中してテキストを読み込める。勉強する場として私には学校が必要」

「他にどんな意味で必要だと感じる時がある?例えば友達を作る場所としてとか」

「私は子どもの頃から学校で友達ができたことがほとんどない。基実くんと帝都くらいであとはみんなダメだった」

「女の子の友達は?」

「今まではいない。すぐに嫌われるから作るのあきらめた」

「男の子の友達は?」

「彼らには彼女がいるし、またあらゆる人間関係のなかでは女性と関わるでしょう?友達にはなれない。友達の友達に気を遣えるほど器用じゃないの」

Billは少し困った表情をした。めぐみさんに同情したのだろう。

「Bill、大丈夫ですよ。めぐみさんは別に悲しい思いを伝えているのではなくて客観的な事実を伝えているだけです。今、めぐみさんは子どもの頃よりずっと幸せそうです。三閉免疫の人たちと接触できるようにあなたに治療をお願いしたいんです」

Billはすぐにめぐみさんの顔を見た。

「今のままだと三閉免疫の人たちと接触できない。だから治療続けて元気になりたいの」


7つの大陸のそれぞれの金庫番に対して報告するその日の報告書にBillはこう書いたらしい。

「治療の根本は我々と同じ課題を抱えている。彼女には家族を土台とした全く新しい人間関係が必要だ。今年はMjustice-Law家の御簾が世界に開かれた記念すべき元年になる。スカーニーはそのつもりで振替政策を決定しているのかもしれない。世界中の財政に連絡を」














  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る