第7話童子の奉献
右に帝都、左に基実、世話役はバロウが勤めてくれるという。
本番はその天辺まで喜八が担いでくれるらしい。
右炉の家も左吾の家も、もちろん央観の家も1月から毎日ひっきりなしに来客があった。
女手の足りない三閉免疫のために、ヴィクトーもアーサーもヴァージニアもジョセフも交代手伝いに来てくれた。(だから彼らは1月からずっとこの島にいることになるのか、、、)
昔は童子の奉献といったらしい。何も知らない純真無垢なお稚児さんを後ろの大人が操っている、それは幼児虐待になるといって200年の間封印されていた、三閉免疫の伝統行事。
「これが俺たちの家の守り神、伝家の宝刀よ」
太刀の名前は八幡素戔嗚神応命
指輪で例えると、女性が好きそうな華奢な感じだ。だけど持ってみると重い。ずしっと重くて私はよろめいた。刀をしげしげと見ていると父が私を呼んだ。
「めぐちゃん、ちょっとおいで」
いつもと雰囲気が違う。大事な話があるみたいだ。
「なに?」
大事な話は絶対重い話。ハンカチと水筒を持って父の部屋に行った。
「刀、どうだった?」
「綺麗だった」
「きみはあの刀で生まれたんだよ」
父は執務室の一番上の引き出しから数枚の写真を取り出しながら話を続けた。
「帝王切開で生まれるのはうちの伝統。こんなことおかしな話なんだけどね、普通分娩が可能でも必ず帝王切開をするんだよ。そして帝王切開が行われる際に奉納される刀がその子どもを守る刀となる。めぐちゃんをずっと守っていたのは紛れもなく、さっき手に取った八幡素戔嗚神応命という刀で、めぐちゃんとお母さんをつなぐ唯一の遺物でもある」
父はタバコに火をつけて、話を続けた。煙の中に思い出が見え隠れする。これを見せたくて父はずっとタバコをやめられなかったのかもしれない。
「帝王切開の教育儀礼はとても厳しい。お父さんは君が耐えられなければそれでいいと思っていた。君は女の子だしね。でも、めぐちゃんは名前のとおり恵まれた子だと思った。帝都も基実もいてくれる。彼らは優秀だし、女の子であるめぐちゃんを支えるに相応しい強さもある」
「知ってる」
好きな人を褒められるのは嬉しい。顔が綻んで父もほっとしたのか、バロウと喜八を呼んだ。そして帝都と基実くんの到着を待って、午後7時。父の祝詞が始まった。
はじめて聞く父の祝詞は鳥肌がたった。轟々とした声色はいつもの声とは別人で、掲げる手の指先一本一本には光が満ちていた。小指から小指まですべての指に何かが宿っているようだった。
「前夜祭にはエルザ・ヨウが来るかもしれないから、できれば謝っておきなさい。時空旅人になったと聞いたよ」
大事な話の中心はここだったのか。
そんなことはわかってる、でもあれだって烏鷺棋の一環だったんじゃないか、、、と言葉が出かかって素直に従うことを選んだ。
今一番偉いのは父であって私じゃない。祝詞を初めて聞いて私は父の偉大さを実感した。
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