第6話 仮定法と塑像

インマヌエルにもらった地図がさっぱりわからない。

「宿題だからね。ちゃんとやっておいてよ」

前回の授業のインマヌエルはすこぶる機嫌が悪かった。きっと女の子の日だったんだ。そうじゃなきゃあのイラつきは理不尽すぎる。


真ん中にある柳の木はいまにも幽霊が出てきそうで不気味だった。

「めぐちゃん、今日は夜おトイレで行けるかな?」

「それセクハラだよ」

と言うのも面倒くさかったからとりあえず睨みつける。幼少期を一緒に過ごせなかった寂しさからか、スカーニーはあたしを子ども扱いして、一歩間違えばセクハラめいたことも言う。

東には海があって、荒野があって大陸があって亜路村があった。基軸はサドガイ派とある。

西には大陸があって鉄鋼があって海があって担荷町があった。基軸はファリサイ派とある。


ユグドラシルが烏鷺棋のために植えられたことはわかっている。それが極東の島国にうわっていることも。インマヌエルが植えたこともなんとなく理解できた。

でも、サドガイ派が亜路村というのがよくわからない。そこはアフリカ大陸が記されていて北方ではない。

西の鉄鋼や担荷町もよくわからない。でも担荷町がファリサイ派なのは理解できた。なぜならそこが西海岸だからだ。

平面に描かれた地図をくるっとまるめても理解できないことが多かった。

注意書きも特にない。


烏鷺棋の第二シーズンのお勉強は想像力だけで進めていく。仮定法と想像において実証していく座学だ。

「お父さんは座学が大っ嫌いだったよねえ。第二シーズンで親父に実務返還してすげえ喜んだけど、座学だってわかって逆に落ち込んだ」

どうしてはじまる前にこういうことを言うのか。本当、信じられない。

「おじいちゃんが生きていればねえ」

何を言ってるのかさっぱりわからない。


インマヌエルの授業は決まって日曜深夜。最近は時空行路を無視して雷に乗ってくる時が多い。

「エクスプレス、エクスプレス!」

なんだかあたしみたいに調子がいい。

「地図の予習した」

「うん。ユグドラシルはあなたが植えたんでしょう。それはわかった」

「正解。それなのになんでそんな渋い顔してるの?」

「亜路村が理解できないから。サドガイ派ならアフリカじゃない、北方のはずよ」

「今日は機嫌がいいから答え教えてあげよう。今はスカーニーの時代だからよ。あなたの時代はUBY。位置が反転するの」

「ああ、、、そ、そうなんだ、、、」

先生なのに答えを教えるってどうかしてる。なんでだ?

深夜を過ぎた頃大きな満月が現れた。厳密には下弦のフェーズに入りかけているけれど。

「インマヌエル迎えに来たよ」

真っ黒な髪に浅黒い肌、汚れた爪に、猛禽類みたいな鋭い目、少し丸まった肩、、、サリンジャーだ!!!初めて見た。

「今終わったところ、すぐいく。じゃあ、めぐちゃん、また来週!」

サリンジャーはあたしには目もくれず、ただインマヌエルを見つめてエスコートしながら月の中に消えていった。

「なんだよ、あいつらデートかよ、、、」

半分むかついたけど、インマヌエルとサリンジャーが時空旅人でも恋人だとわかったことが嬉しかった。

そろそろ帝都が帰ってくるかもしれない。こっそり教えてあげようかな。



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