第5話 満点答案

ロケットはひとつひとつエンジンを切り離すことで加速を増していくらしい。

「いけ!いけ!!」と後ろから応援するような気性だから、ロケットの先端部分としての日々はとても窮屈だった。

覚えることよりも慣れるべきことが多くて、勉強は苦にならないけれど勉強に向かうまでの環境も自分で整えなければならないことが慣れなかった。

「めぐちゃーん!今日こそ単存、合存系の勉強やるからね!!」

アマンダがわざわざ時空旅人のエリザベスまで連れてきて寝起きのあたしに宣言した。

だめだ、もう逃げきれない。


あたしは単存とか合存の授業が大嫌いだった。BelvyやLeeはあたしに甘いからきっと基実くんとバロウか誰かが裏で根回しして担当者を変えたんだ。

くそ!!


「めぐちゃんはなんでそんなに単存系の授業が嫌いなの?」

アマンダとエリザベスは必ずwhyから授業をはじめる。日本人のあたしは最初なれなかったけれど、今はすごくやりやすいと感じる。

「なぜ?」と問われると自分がいったい何を根拠にしていたかを自ずと内省することになるからだ。英語圏の人々が論理的だと言われるのはこのような言語の習慣や文法の仕組みにあるのかもしれない。

「なぜなら、ルーツなぞなぞだから。誰がどこで生まれてもどんな民族でもどんな人種でもそれを知って多様性を認め合おうとかなんか貧乏くさくて嫌なの」

アマンダとエリザベスが顔を見合わせて、ちょっと戸惑ったようにまた言う「Why?」

「マイノリティを認め合いましょうとか多様性を認め合いましょうって戦後処理っぽいっていうか。戦後処理ってお金ちょうだいでしょう?」

アマンダとエリザベスがまた顔を見合わせる。あたしはやっぱりと思いながら続ける。

「戦後処理って責任とってください、謝ってくださいって、何で解決するの?命を買い戻すこともできないくせにとりあえず金でってなるじゃない。領土の分断だってそう。あれって利権でしょう?金が出ないところの土地を戦後処理で分捕った歴史ってある?」

「わかった。それは本当に正直すぎると言うか、、、」

アマンダが困惑してエリザベスに助け舟を求めるように顔を見た。

「ええ、そうね、、、、めぐちゃんの言う通りだと思うんだけど、、、」

エリザベスが我慢しきれず吹き出した。あたしは嬉しくなってさらに続けた。

「結局金の話になるのに、倫理だ道徳だ平和だ正義だってムカつくのよ、嘘つきで薄っぺらくて。人権侵害?人種差別?宗教差別?なんでもいいけど、誰がはじめたの?個人でもないのに人のルーツを知ってどうなるっていうのよ。組織的な侵害だ差別っだって騒ぎ立てるのはだいたい個人じゃなくて組織。正義だとか道徳だとか倫理だとか言って金をかすめとろうとするなら働けって思うの。だからあたしは単存とかの授業が嫌いなの。無意味に感じてしまうから」

エリザベスはそういうことを絶対言ってはいけない時代でこの地球をあとにして、今この地球に向かっているからか、笑いが止まらない様子だった。

あたしは嬉しかった。エリザベスが自由を勝ち取った気がして。


数日後、アマンダから通知表が届いた。

「私たちが教えるべき単存や合存とは別の視点であったので合格はあげられない。けれど、あなたが考える単存や合存の視点はこれからの世の中の光になることは間違いないと思いました。エリザベスがよろしくと言っていました、あなたらしい世の光を世界中に行き渡らせてほしいとのことです」


不合格だったけれど、エリザベスがやっぱり喜んでいたことが証明されたからあたしは満足した。

試験は追試験になったけど、あのとき間違いなくエリザベスは嬉しかったみたいだ。そのほうがあたしにとっては価値がある。100点以上の価値がある。

よかったあ









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