第3話 存在への信頼

インマヌエルの授業は決まって金曜日。緊張するし、いつも気分が悪くなる。

基実くんも帝都もいてくれない最悪のタイミングの金曜日。


「めぐみさん、こんばんは」

この人はいつも夜にくる。決まって夕方5時7分。あたしが生まれた時間だ。

「こんばんは」

苦手だ。たぶん完璧、なんでも知ってる、嫌味もなければ欠けもない。それを悟られないように、相手に配慮しておどけて見せるところまで含めて完璧。

「めぐみさんは自分の性自認をどう考えていますか?」

「はあ、、、」

ムカつくから平気なふりをする。平気だと思えばこんなやつ怖いわけがない。あたしは目をとらえて話し始める。この人の目は怖いから大嫌いだけど一歩踏み込むんだ。

「あたしは男ではありません。性別的に考えて女です。しかし、女であることが困難な時あたしは男になります。すると上手に女が姿を消してくれます。女と男は表裏一体であることを感じます。いつも同時に出ているのではなく交代するのです。疲れちゃうから」

「なるほど。では昼と夜について、あなたはそれぞれどのような役割があると思いますか?」

「性別と同じです。どちらもなければ息切れしてしまいます。この世は昼を主体として動いていますから、夜がなければ成り立ちません。作戦会議の時間です」

「では、最後にあなたはこの世界がひっくり返ると思いますか?」

「はい。でもそれは今ではありません。時期が早すぎる」

「なぜそう思いますか?」

「世界がひっくり返る時、昼は夜になります。女は男になるでしょう。ということは人間は天国を目指すのではなく、地獄を作ることを課題としなければなりません。天国を目指すことさえうまくできない人間が地獄を作るなんてできるわけないからです」

「あなたは今地獄を作れと言われたらできませんか?」

「できます。でもその意図を読み間違える人が、、、人間が80億いて、それから日本には約1億2000万人人がいて、、、」

数字は苦手だ。頭が混乱して集中力が削がれていく。

「言葉でかまいませんよ」

「地獄を作るに足りうる思考力の総数が天国を目指す思考力の総数の10分の1にも満たないからです。つまり、人間は天国の何たるかを理解しておらず、地獄からの脱却にのみ視点を向けている、ソレ以外に見えない盲目な状況。それが現状です」

「あなたはソレと言いました。ソレとは何ですか?」

「あたしです」

「素晴らしい。よく理解できていますね。どれくらい勉強しましたか?」

「それはあなたが一番知ってるでしょう?インマヌエル。あんたのこと大嫌い」

インマヌエルはお姉さんぶって微笑んだ。

「また来週、小さなインマヌエル」

「今の帝都や基実くんには手を出さないでよ!」

軽口を言い合えるようになった。テストは今日も合格だ。



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