第19話 Landing Gear

1960年後半から建築が盛んになった。ニューディール政策よろしく、財政が主導し、都会は乱立するように高層ビルが建築されていった。いくつもの建設業者は人手不足を補うように移民を招き入れた。親切に厚遇を見せかけて労働者の親たちには「感謝の気持ちだ」と200万円を握らせて笑顔で船から手を振らせた。銃を所持できなくしたのはそんな歴史的背景があったからだとはこの島の人々は知らない。この島には実際国名はない。国名は剥奪することによってMjustice-Law家の島としたからだ。

「どうして軍隊がないのに攻め入られないか考えたことある?守るべき人がいないってことだよ。そして世界のどの国からもこの島は国として認知されていない。Mjustice-Law家の一部だから」


乱立するビル群をコンクリートジャングルだと呼ぶ。猿もワニもピラニアもアナコンダもいるように作ったのか?と問われたスカーニーは笑って「そこまで考えてはいなかったよ」と自分の才能を謙遜した。


コンクリートジャングルは人工的に作られた。高層ビルと低層ビルの間に吹き抜けるビル風と、居住地を探し選ぶ自由は人々に本来ならば真実を見つけ出す思考力を養うことが目的だった。

アナコンダがいてもピラニアがいてもワニがいてももしも猿に成り下がってしまっても、畜生やウイルスでなければ自分がなんとかしてやれる。


コンクリートはいまや老朽化して崩壊の危機にある。補強なのか、解体して再開発なのか、船に乗せられてきた移民たちは今日も左の背中、心臓のすぐ後ろあたりに刃の突先を感じながら暮らしている。対岸にはあの頃共に暮らした三閉免疫の人々がMjusitice-Law家と共に外国の要人と共に食卓を囲んでいる。


恨めしく思うものの、一瞬でもその仕事を怠れば心臓の後ろに感じる刃はすぐに自分を貫き、目の前にいまだ活力に満ちた状態の心臓を押し出すだろう。


死ぬか、生きるか、今この瞬間の話なのである。


ジャングルを縫うように生きた三閉免疫の人々はある日、同じようなスカーニーに出会った。今から40年前のことだった。貧しいその姿に彼らはいつものように見守った。スカーニーが「ここで一晩泊めてくれませんか?」と勇気を振り絞るまで3日、曜日はすでに日曜日から月曜日に変わりかけていた。

「もちろん!」

ようやく助けを求めてくれたことを喜んだ三閉免疫の人々とスカーニーの付き合いはこの時から特別なものとなった。


対岸にスカーニーとビルとセバスチャンが座っている。自分達と同じように移民で渡ってきた人の一部も共に座っている。


オルレアンがグラスを持って立ち上がる。

「息子が貧しい姿をしていた時に助けてくれたこと、息子を信じてここまで共に戦ってくれたこと、息子と孫娘のことを大切に見守り続けてくれたこと、虐げられてもなお、味方でいてくれたこと、そして息子と翠蘭さんの結婚を祝福し、翠蘭さんも慕ってくれたこと、感謝する。ありがとう!」


時空旅人たちからも拍手が沸き起こる。

オルレアンがセバスチャンと握手をしている姿が世界に公表されたのは実に80年ぶりだった。


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