第18話 Shame with Commitments

この島でこれほどまでに「誹謗中傷」が流行ったことはない。

スカーニーと帝都は地上の流行を上空から冷ややかに見下ろしている。

インカムから捜永が呼びかける。

「どうしますか?」

「一度、水を通せ。誹謗中傷が流行っているのはなぜかということを思い知らせてやりたい」


誹謗中傷というブームはなぜ起きているのか、冷静に考えさせたい。

涙ながらに「いじめないでください」と訴えかけることができるのはそのような場をお膳立てしてもらえたからだ。


水には流動性がある。木と違ってどこへでも流れ込んでいく。亜種白路が目につけた4大元素のうちの水はMjustice-Law家創設時は日本のマリコの持分だったから自由に使えると主張している。

SWLカンファレンスの主要メンバーであるスカーレットは職業名義を真理子としているところからも故意が簡単に立証できた。


誹謗中傷ブームは火付け役がつけたわけではない。水を用いて鎮火を試みる亜種白路の力いっぱいの抵抗だ。


「スカーニーに対して抵抗を試みることは世の中が変わった証拠です。悪いことじゃない」

セオはそう言ったことがあった。確かにその通りだと思う。

スカーニーは見下すことを好まない。恩賜芍薬として降り立ったオルレアンも見下していないことを伝えるために仮面の下から拙文ではあるけれど、と謙ってプリンシプルを解いた。


気候変動は四大元素のバランスの崩れを意味している。水がその持ち場以上に世界を支配しようと試みたことは一度もない。しかし、その流動性を活かしてそのように、水を流している人間がいることが確かであった。


第二次世界大戦後の三分割において、亜種白路は最も人目に付く監獄に収監された。世界中が監視員となっているため自殺さえ許されない、地獄の監獄だ。

その監獄は透明なアクリル板で仕切られているために人々の目にはそれが監獄であるとは見えない。

褒められるべきかは別としてもよくできた大胆な犯行だった。灯台下暗しという言葉をオルレアンは痛々しくその胸に受け止める。


水を通して誹謗中傷は行われている。水が巻き起こしたように装った亜種白路を罰するために。



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